二話 その名は……
ここは始まりの街からすぐそばの草原
そこに一匹のスライムがポンッ!とまるでシャンパンの栓を抜くような音を立ててポップした
「あ~……なんか面白可笑しイヤらしい……ご褒美のような夢だったな……」
そう呟くとゴロンと寝返りを打つ半球体
「ん?……部屋に草が生えてる……これがホントの草生えるwwwってヤツか」
どれどれ流石にフローリングから草が生えるような部屋は掃除の一つもせんとあかんな……と起き上がる(つもり)と視界に飛び込んで来たのはあたり一面に生える草!草!草!
「大草原かwww」
どうやら夢から覚めた夢というものを見ているらしいと思い直し、再度
「しかし……風が妙にリアルだなぁ。匂いを感じる夢とか生々しいな」
風、匂いと来たら、味覚の確認をしたくなるのが人間の好奇心と言う物だろう
彼は地面に生えてる草を
「ペッ!ペッ!スッゲー苦い!うげぇぇぇ」
と慌てて
「それにしてもめちゃくちゃリアルな夢だなぁ」
そう呟く彼は横たわって身動き一つせず、黙って目が覚めるのを待つこと数十分
「こらぁぁぁ!いい加減動き出しなさいよ!このピザデブニート!」
脳内に突然響いたロリロリでツンツンな声に驚き跳び上がる
「その声は!マイエンジェルルナちゃん!別の夢にまで出てきてくれるなんて!僕ちん感激ぃぃ!」
そう丸い体全身で喜びをアピールすると、再び脳内に愛らしいツンロリな声が響く
「うるっさいわね!キモいのよこの豚!出荷されたのになぁんでまだ勇者と接触してないのよ?!豚は豚らしくさっさとブツ切りみたく斬り刻まれなさいよ!」
「デュフ……なんて素晴らしい罵倒なのか。ご褒美すぎるぜデュフフ……って待て待て。言うてルナちゃんの設定だと俺ってスライムでHP5なんだよね?ちょっとでも斬られたら死んじゃうじゃん」
そこの処どうするの?と彼はいつの間にか掌握したスライムボディを器用に変形させて【?】マークの形をとる
「死ねって言ってんのよ人族のクズ!面汚し!ヒキニートって段階で死刑同然なのに、その上ロリコンピザデブなんて地球なら即刻打ち首獄門物よ!」
その罵倒に彼はハァハァと息も荒げて耳が幸せになってしまうんじゃ~とプヨンプヨンと辺りをひとしきり転がり回るととプヨった肉体をキリッ締め直し
「しかし打ち首獄門って……古過ぎ……はっ!ひょっとしてロリっとした姿は実は仮の姿で本当の姿はクソババアなのか?!」
俺のトキメキ☆を返せ!この合法ロリババア!と
「ごごご!合法ロリババアですって?!私は女神よ!年なんて取らないのよ!トイレにだって行かないわ!」
どうよ?と言われて途端に無い肩を落とすようにデロンと伸びるスライム
「なん……だと。それでは伝説の黄金水を俺はどうやって飲めばいいというのか……」
女神のどやぁ発言に、消沈するスライム……消沈した内容に関しては完全に明後日の方向である
「くっ……この変質者めぇ……もういいわ。あと少ししたらあそこの街の門から
「そんな投げやりな……」
「あんたみたいな変質者なんてそれ位で十分よ!それじゃ、しっかり勇者の糧になんなさいよね~」
ね~……ね~……
と遠ざかるツンロリな声が聞こえなくなるまで幸せを噛みしめる
そしてぼぅっとすること数十分
なんとなく見ていた街の入り口から出てくる三人の人影
前を歩くのは二人
金髪金眼の強気そうなナイスバディの女の子
茶髪茶眼のやさしそうな感じでスタイル的には普通の女の子
なるほど、これが勇者パーティーに違いない!これ程の美少女を二人も……ふ・た・り・も連れ歩くなんて!勇者!テメーは全世界の非モテ系男子を敵に回したぜ!戦争だ!
「うおおおおおお!勇者しねえええええ!」
と雄叫びを上げるとゴロンゴロン!と半球体の体を器用に変形させ、球体になった体で回転からの加速を持って背後に居た男へと突撃した
ガガツン!
かなりの速度で体当たりをした彼は硬く鋼のような物に当たってその体をビチャァ!と大地に撒き散らす
体当たりをされた勇者と思われる青年は、あろうことか始まりの街と聞いていたのにも関わらず、ギラリと光る全身鎧を着込み、背中を隠すように背負った盾は妖しく輝き、腰には装飾過多な剣を差している
「ん?」と押された衝撃に首を回して周囲を確認する勇者と思われる青年は、足元に広がるジェル状の液体を見て
「なんだスライムじゃないか。最近はめっきり見なくなったと思っていたけど……」
まだ居たんだな~と投げやりな感じでブミッと踏みつけて美少女達を伴って去って行った
「ぐおおおお!いてえええええ!」
液状からなんとか形を元に戻した彼はゴロリゴロリと辺りを転げ回る
これは瀕死の重症を負ってしまったに違いないと思った彼は現在のHPを見ようと思い立つ……が
「見方がわからない!くそ!あのツンロリ娘め……ちがうな。様め?……」
何となくどう呼んでいいかわからないな。と軽く無い頭(物理的に)を捻ると
まぁいいか!と明日の自分に投げ捨てて
「ステータスオープン!……ウィンドウ!……メニュー!」
ヒョン!と突然空中に青い液晶みたいな物が表情されると、現在の彼のステータスが表示なれていた
HP:1/5
MP:1/1
力:1
敏捷:2
体力:2
知力:1
魔攻:1
魔防:1
特技:自然治癒(低速)
魔法:
と表示が出た
「よっし!確認出来た……ってステータス低っく!マジでスライムじゃん!」
と彼は今更ながらに愕然とする
「体当たりの反射ダメージと踏まれたダメージで既に残りHP1とか……軟弱にも程があるぞい。幸い低速とは言え自然治癒があるから放っとけば回復しそうではあるが……」
はぁ……とため息を一つ吐くと、途端にこの状況を招いた対象に毒づき始める
「くそぅ……あのツンロリ超絶絶対可憐美少女女神様め……とんだご褒美だぜ。次に出会った時はきっちりとお礼をして差し上げなければ……デュフフ」
取り敢えずこの場に何時までも居ては他の戦士等はおろか街のお子様にまで殺されそうだと思い……コロコロと草むらまで転がって身を隠したのだった
そして約30分後、もう一度メニュー!と叫んでステータスを表示させると
「HPが全開してる……約5分に1位のペースで回復してるのかな?」
そう時間経過と関連付けると再び草むらから姿を
「う~ん……流石は始まりの街。
ホクホクと照らされる日差しにグミのように弾力のある形状からジェル状になると、溶けるように周囲に伸びて日向ぼっこを始めた
そうしている内に意識が落ち、次に気が付いた時には散々照っていた日差しも夕焼けにと変わり、青いジェル状の体を赤く染めている
「良く寝たなぁ……ルナちゃん……出てこなかったな……」
夢すら見れてない事に今は無い肩を落とす(落としたつもり)彼の耳に(そんな物はない)あはは!うふふ♪と笑い合う男女の声が聞こえ、思わず隠れる
すると現れたのは旅立ったと思っていたはずの勇者一行
あの女神に一泡吹かせるチャンス!とばかりにモニョモニョとジェル状に伸ばした体を地面に這わせ、気付かれないようゆっくり、ゆっくりと近づいて行く
そしていよいよ盾を背負っているからって注意が行き届いていない無防備な背中に向けて
「今だ!」
と大きく広げた肉体を纏わり付かせた!
「なっ!なんだ!」
と慌てて背中に手を回す勇者
しかしフルプレートの為手が後ろに回らない
なんともマヌケな格好の勇者に、このまま草みたく捕食してやるぜ!デュフフと意気込む彼
そこにブチュ!ブチュ!と弓矢が突き刺さった
「いてええええええ!」
と溶けるように地面にべチャリと落ちる彼
そこに草むらから飛び出した盗賊風の集団
「くそったれ!変なスライムが割り込んだせいで勇者を仕留め損なった!」
「こうなったら人数で押し切れ!」
「いけいけ!」
「うおおお!」
と次々に現れる盗賊風の男達をバッタバッタと薙ぎ倒す勇者一行
そうして瞬く間に全滅の憂き目にあった盗賊に縄を打つと、勇者一行のほわっとした茶髪に茶眼の少女が地面で未だに溶けて動けないでいる彼に近づいて行く
「あっ!バカ!危ないわよ!」
「リサ!」
そう声を掛ける魔法使い風の女の子と金持ち風イケメン勇者に笑顔を向ける少女リサ
「このスライムさんが身を挺して助けて下さらなければ今頃リョーマ様は後頭部を弓矢で串刺しにされてました。そうでしょ?ドロシーさん?」
「ぐ……」
「確かにそうだけど……」
と痛いところを突かれたのか口籠る二人に
「きっと大丈夫ですよ」
と微笑むと未だ溶けている彼に癒やしの魔法を唱える
──ぐっ……俺は勇者に絡みついて……それから弓に射られて……──
回復魔法により意識を取り戻した彼は、ビチャリと広がっていた自分をグミ状にまで戻すと頭を振るようにその体を震わせる
「ふふ。まるで赤ん坊みたいで可愛い」
目の前で聞こえる天使のような音色の声に、この声はなおぼう様にそっくりだ!とオタクパワーで見上げると
──天使が降臨召された……この脳がとろけるような声……華奢で折れそうな体ながらも出る所がしっかりと……デュフフ──
と邪な考えまをしているとは知らずに、イヤらしいグミ状の彼に目の前の天使は慈愛の表情を向けて両手を広げ
「おいで」
その一言に飛び付かない男など居ない訳がない!元気イッパーツ!とグミ状の彼はポヨンと柔らかい手のひらへと飛び乗った
「うふふ。ポヨポヨしてて不思議な抱き心地ね」
そう言うと天使様ことリサはとろけるような声でグミ状の彼を摘んだり撫でたりして遊んでいる
「だ……大丈夫なの?」
「ええ。ドロシーさんも抱っこしてみる?可愛いわよ?」
「えええ!……でも……リサがそこまで言うなら……」
魔法使いの少女はおずおずと腕を広げていらっしゃいのポーズ
開かれた腕によって胸に鎮座するけしからん双子山がブルンと弾む
その光景に吸い込まれるように飛び移ってしまったのを一体誰が責められよう!
──巨乳美少女デュフ!デュフ!デュフフフフ!──
その両腕に抱きしめられ、胸と腕で圧迫されてグミの形が変形するもプルプルと身震いする姿に思わず顔がニヤけてしまう魔法使いの少女
ドロシー
実際はとても邪に胸の弾力を全身全霊をもって堪能しているとはお釈迦様にも気付かれまい
「随分と人懐っこいスライムだな……」
ついに勇者も近寄ってくるとツンツンと乱暴にグミの体を突く
──触るんじゃねーよ!リア充!爆発しろ!──
と吠えるも
「なんかプルプルしてて面白いな!」
──くそ!伝わらねぇ!何時まで突っついてるんだこの野郎!大事な器官があったらどうするつもりだコラァ!──
ついにグミ状の彼はピシッ!ピシッ!と触手を生やして勇者の手を叩く
「くっそコイツ!スライムの癖に!」
「ぷぷっ!突っつき過ぎて嫌われてやんの」
「うふふ」
「くっそー!命の恩人?恩スライム?でなければ叩き斬ってやるのに!」
キリキリと歯噛みする勇者リョーマを二人の少女は見つめ合うと微笑ましく笑い合う
「不細工に歪んだグミ野郎!テメーの名前はブサだ!」
人差し指をビシィ!と突き付けて宣言する勇者リョーマを二人の少女は男の嫉妬って……と憐れみの視線を向けている
──なんだって!美少女大天使リサ様や巨乳エロエロ美少女ドロシー様に言われるならご褒美だが……貴様の様なイケメソに言われると腹が立つだけだわ!──
と吠えるも声帯などという器官はスライムという生物には有る訳もなく、結果相変わらずブルブルと振動する事しか出来ず
「あれ?……この子、気に入ってるのかなぁ?」
「本当ですね……こんなに喜びに打ち震えているなんて……」
そう口々に気に入ってるだの嬉しそうだのと言っているが、勿論断じて否である
──んな訳ねーだろ!ただのご褒美だよ!ありがとうございます!この巨乳エロエロ美少女が!乳揉むぞ!あと勇者は死ね!──
こうして名もなきスライムだった彼の名はスライムブスと名付けられ、勇者一行のマスコットとして後世のあらゆる伝記に登場するとかしないとか──