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現状を把握しよう

 あの戦いから1ヶ月、俺は100の兵を率いて一路トゥール村へ向かっていた。キマイラ襲撃からはや2年ほど。慌ただしく王都に出てから初めての帰還である。帰郷に似た郷愁を感じるのは、あの村の居心地の良さを思い出させる。

「エレス、何ブツブツ言ってるの?」
「あー、居候時代のぐーたらを懐かしんでるじゃないですかね?」
カイル、お前地味にひどいな。
「殿はいざというときは頼りになるが、平常時には昼行灯でござるからのう」
ナガマサ、後でいっぺんシメる。
「いざって時に使えるってわかってるだけマシだろ」
「ロビン殿は手厳しい。まあ、殿がのんびりとしていられるのは良いことだと思うことにしましょうぞ」
いいこと言ったつもりか?トモノリよ。お前も後でブートキャンプな。
なんか微妙に汗をかきながら部下たちが俺の方を見る。
「エレス……いつものことだけど……ダダ漏れ」

一応俺爵位もちで領主で、お前らの主君に当たるはずなのですが……?先触れの兵が戻ってきた。代官のライエル卿と、村長のライルと村人たちが出迎えていた。2年半前の戦いの爪あとは既に修復され、美しい風景を取り戻している。

「エレス殿、いや、領主様と呼ぶべきですな。ようこそいらっしゃいました」
「ライル殿、堅苦しい挨拶は不要です。これから世話になります」
「カイル、おかえり、立派になったな」
「父さん。王都で学業を修め只今戻りました。今は騎士として授爵して、ラーハルト家の兵隊長として務めています」
「我が家の出世頭だな。めでたい。本当にめでたい」

 親子の感動の再開を尻目に代官からの引き継ぎを受けていた。実は復興が終わったのはつい先日のことであり、復興作業を終えた祭りが明日開かれる予定になっている。新たな領主を歓迎する意味合いもあるそうだ。そして聞きたくなかった事実、領主館の金蔵はすっからかんらしい。まあ、先日の戦いの報奨金があるので、しばらくは領地運営に支障はないだろう。次の徴税まで繋げば良いのである。ただ、維持が精一杯で、投資ができる状況ではなく、投資できない現状は先細りであることを意味していた。
兵は、キマイラ騒動の際に死んだ数は補充されておらず、オルレアンから代官が連れてきた手勢が治安維持を担っていた。とりあえず今回連れてきた兵で穴埋めをしつつ軍備の増強もしなければならない。一度実戦を経ているとはいえ、もともと新兵が中心であったから練度の向上を図らないと死活問題である。

不足している資金、練度不足の兵たち、救いは領民が友好的であること。
そしてギルドから上がってきた報告に頭を痛める。北西の森で魔物や亜人が活性化しているとのことである。討伐依頼を出す資金も不足がち。頭いてえ・・・

 祭りは盛大に執り行われた。王都から持ち込んだ酒はあっという間に飲み干され、程よく酔った人々が談笑している。勢いでミリアムに言い寄った若者がノックアウトされた。これで……12人目か。後ろに積み上がっている人影によく気づかないものである。うちの兵たちと村人もなんだかんだで打ち解け始めてくれている。いいことだ。とりあえず頭の痛い問題は先送りにして、今を楽しむことにした。

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