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奪われた日常、見せつけられる実力

放課後、俺は携帯音楽プレーヤーで音楽を聴きながら、3階の2年生の教室から、5階の生徒会室に向かう。この学校は、一般教室棟(新館)と、特別教室棟があり、二つの棟は2階と3階に連絡通路がある。一般教室棟から伸びる細い連絡通路の先には、体育館・講堂・武道場がある。あとは特別教室棟と一般教室棟の西の端に学食の建物を置けばこの学校の鳥瞰図は完成する。いつの間にか、5階に到着する。一般教室棟の5階には生徒会室しかない。中央階段の一番上、本来屋上への出入り口ができる場所に、特別教室棟と一般教室棟の間、中庭を見下ろす形になる生徒会室。生徒会室に入ると、右横には壁一面に広がる本棚。左側にはスティール棚、TVがある。天井高は8mほど。一部には本棚に沿って、ベランダのようなものがある。俺は耳に突っ込んでいたイヤフォンを外す。前方に広がる巨大な窓の手前には、二つ横並びにデスクが置かれている。生徒会には、生徒会長、諌垣絵菜と俺だけ。永海学園は、私立の学校で、ここ高等部のほかに、少し離れたところにある中等部の二つがある。付近には学園併設のマンションや、学園の上部組織である高垣教育グループという会社の自社ビルがあったり、高垣教育グループの系列の病院があったりと、周囲には学園に関係する建物や組織が多数ある。それはさておき、俺は自分にあつらえられたデスクチェアに座り、生徒会の備品である古いノートPCを起動する。パナソニック製のオフィス用PCとして売り出された機種である。パスワードを打ち込み、作業を始める。この学校に転入して早一か月。何度か高次元生命体と戦闘し、うち数体が封印され、現在防衛省高次元生命体対策局の本部に保管されている。陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の各大臣直轄部隊を統合して2年前に設置された統合任務部隊、高次元生命体対策作戦群を統括するのが防衛省高次元生命体対策局である。とこの前諌垣から聞かされた。一部の国防評論家が極秘に統合任務部隊が設置されたという情報をTwitterで拡散させていたのを見たことがある。その翌年の組織再編で高次元生命体対策局が設置されたことも諌垣から聞いた。俺がこの前倒した高次元生命体、マルベスについての報告書を書いていると、外から何かが崩れる音がする。俺は窓の外の見る。グラウンドの向こう側にある旧校舎、現在解体中の建物の半分ほどが完全に破壊され、その部分の地面が陥落している。3m強はある大型の高次元生命体が暴れているようだ。旧校舎の残っている部分の屋上に、制服を着た女子生徒がいる。恐らく諌垣絵菜だ。奴はどうも怪物を封印しようとしているらしい。だが、奴の封印能力は、高次元生命体が弱っていないと使用不可能である。俺は、一か月訓練しているうちに習得した、瞬間移動能力を使おうと、
「瞬間移動」
とだけ言い、右手で空間に円を描く。円の中に自動的に模様が生成され、俺の身体が宙に浮く。

俺が旧校舎の屋上に瞬間移動する。まあ、瞬間移動というか、単に4次元を走ってきただけなんだけど。ああ言わないと4次元に入れないんだよな。俺は、
「諌垣。大丈夫か?」
と声をかける。諌垣は、
「やっときましたか。正直早く封印したいです」
と言う。俺は、指をパチンと鳴らし、その手を開く。すると、そこから光り輝く棒が出てくる。その棒が全貌を現した時、下方から歓声が上がる。屋上のへりの方に寄っているので、下からは丸見えである。その光り輝く物体は、俺の剣である。剣の名前は特にない。とりあえず村正と呼ぶ。俺は正眼の構えを取る。そして、一気にモンスターの元まで走る。壊れてしまっている部分まで走り、角のようになっている部分を足場に飛ぶ。村正が相手の方に届くような位置に、丁度崩れたコンクリート壁の名残があった。それに乗っかると、俺は怪物の肩口から右脇腹まで斜めに斬りつける。これが袈裟斬りというやつだ。モンスターは、
「グルアアアアアアアアアアッウ‼」
とうなり声をあげる。すると、見る見るうちに、モンスターの身体が巨大化していく。すると、周囲が紫色の膜に包まれる。その膜がどんどん縮小されていく。一体なんだ?と思い、飛び上がって屋上に戻る。俺は、
「諌垣。これはお前がやっているのか?」
と言った。諌垣は首を振り、
「違います。これは封印結界です。私もできますが、ここまで強大な結界は見たことありません。考えられるとすれば、伝説の封印師くらいです・・・・」
と言う。伝説の封印師?誰の事だ?すると、俺達の身体が膜から出る。人間には無害と言う事か。その膜、というか結界がモンスターにまとわりつく。そして、白い煙を立たせながら、モンスターごと消えた。俺は、ふと気配を感じ、生徒会室の方を見る。生徒会室の屋根に、袈裟姿の男が立っている。その男は、すぐに消えた。

夜、自宅。俺は、少し考える。あの男が諌垣の言っていた伝説の封印師なのだろうか。どうにも見覚えがあるんだが。俺はカーテンを開け、寺の本殿を見る。この部屋は2階にあるが、寺の本殿は、この家の1階よりもすこし高いところに建っているので、この部屋からだと、叔父の姿が捉えやすい。叔父が本殿から出てくる。石畳の上に立ち、スマートフォンで何かを見ている。俺は、叔父の服装を見て、さっきの封印師って叔父なのではないだろうか、と思った。なぜなら、先ほどの封印師の袈裟は、赤みがかった黄色だった、叔父の袈裟も、全く同じ色なのだ。

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