秘めたる能力、奪われる日常
突如インターフォンの音が響く。読書をしていた俺は、不快な気分になりつつ、リビングを出て、玄関扉を開ける。すると、目の前には、俺と同い年くらいの女子高生がいた。そいつは、
「こんにちは。北宮光尚さん。私は永海学園高等部生徒会長、諌垣絵菜です。あなたには永海学園に転入してもらいます」
と言う。いきなり何を言う。俺は、
「いきなり何を言う?まあ、立ち話も何ですし、上がったらどうです?」
と言った。
諌垣絵菜は、先ほどの続きのように言う。
「先程お伝えした通り、あなたには永海学園に転入してもらいます」
俺は、
「いきなりそんなこと言われても困るんですがね。ちゃんと説明してください」
と言った。諌垣絵菜は、
「・・・まあちょっと長くなりますがいいですか?」
と言う。俺は頷く。諌垣絵菜は、
「今から12年前、2012年4月20日、とあるウイルスが流出する事件があったのはご存知ですよね。それによる影響はないと日本政府は発表しましたが、実際は超次元との門が開いていたんです。現在次元は24次元あると考えられています。確かに24次元あります。私たちが現在いるのは3次元というのも有名な話です。今まで、100年に一度、1日のみ開く超次元の入り口が、現在12年間開きっぱなしなんです。勿論高次元にも生命体がいます。日本の高次元生命体研究機関は、一部の人類に悪影響を及ぼす高次元生命体の事を悪霊と呼びます。幽霊に憑りつくなど、以前から悪霊の出現例は数多くあります。それを封印する能力を有する人間が以前から何万人といました。陰陽師なども有名な話です。現在高次元生命体が多数3次元に攻め込んできています。実は、北宮光尚さん。あなたには高次元生命体と戦闘できる能力があります。体内で戦闘に必要な武器が生成されています。そして、私には高次元生命体の封印能力があります。これまで別の能力者とペアを組んでいたんですが、ペアだった人は、高次元生命体の中でも危険度ランクが最上位級のファベルという悪霊と戦闘したとき、ファベルに体を乗っ取られ、内臓機能が一時的に停止し、現在も仮死状態のままです。意識はもちろんなく、現在国立病院に入院しています」
と言う。俺は、
「俺はその能力者の代わりですか。失礼とは思いませんか?」
と言った。諌垣絵菜は、
「実は、現在私たちの住む世界は、滅亡の危機に瀕しています。少しずつですが国立天文台の報告では、超次元との門が少しずつ大きくなっている模様です。現在、2000万体もの高次元生命体が3次元にいます。彼らは普段、姿を見せぬよう、どこかに隠れていますが、夜になると、必ず出現します。現在日本国内に能力者は10万2000人です。うちファベルによって植物状態にされているのが1500人です。実質戦闘や封印が可能なのは、10万500人です。2000万体に10万人で対抗するんですよ?あなたが協力してくれなかったら、世界が消滅する確率が高くなります。戦闘能力者の中でもっとも強い力を持つのはあなたです」
と言う。そういわれても。俺は、
「たとえそういわれても、俺は己を犠牲にしてまで戦う気はありません」
と言った。たとえ最低と罵られても構いやしない。俺はそういう奴なのだから。諌垣絵菜は、
「たとえあなたがどう言おうと、親権を持つ北宮彩雲殿には許可を頂いて、衆議院の決定事項です。このことは絶対に公表されることはありません。ですから・・・お願いです。一緒に戦ってください」
と言う。困ったものである。幾らそんなこと言われようが、俺に能力があろうが、俺は戦うつもりはない。だが・・・・。俺がいくら抵抗しようと、もう国が決定しましたと言われてしまえば、俺は半強制的に受けさせられる可能性が高い。俺はそれを踏まえて、
「超次元との門が閉じるまで、ならまあいいですけど」
と言った。超次元との門が閉じるまで、つまり、超次元の門が閉じてしまえば、高次元生命体が3次元に入ってくることはなくなる。そうすれば、俺は日常を取り戻すことができる。一時的に非日常的な生活を送ったところで、たいして変わらない。
翌日、永海学園高等部新館5階、生徒会室。そこには、現在、高次元生命体を封印できる能力を持つ、諌垣絵菜と、俺がいた。俺は一応生徒会所属になっているらしい。諌垣絵菜は、
「超次元との門が拡大しています。日本高次元生命体研究開発機構研究本部からの情報では、全次元が統合し、新しい世界が誕生します。3次元のこの世界は完全に破壊され、私たちは死ぬことになるかと」
と言う。全次元統合?新しい世界?俺たちが死ぬ?俺は、
「つまり、世界は完全にリセットされ、新しく生物が生まれるということか」
と言った。諌垣絵菜は、
「そういう事です。時期は未定ですが、来月以降なのは間違いないです」
と言う。来月以降ということは、少なくとも一か月後にはこの世界は滅亡する。なにか国家的研究機関の情報と言うことは、既に各省庁や大学研究機関に情報が伝達されていることである。つまり、各省庁の担当職員、大学の研究員には俺の存在も知られているのだろうな。