見せつけられる実力、小さな変化
翌朝、俺は目覚ましが鳴るや否や、ベッドから飛び起きる。いきなり動いたせいか、腰が痛い。俺は、スマートフォンを手に取り、寝間着に使っているジャージのポケットに突っ込む。部屋を出て、階段を降りる。いつも通り、叔父はリビングのソファに座り、紅茶を飲んでいた。俺は、
「叔父さん。聞きたいことがあるんだけど」
と言った。叔父、北宮彩雲はゆっくりとこちらに向き、
「うん。どうした」
と言う。俺は、
「伝説の封印師。それって叔父さんだよね?」
と言った。叔父のポーカーフェイスにすこし動揺のようなものが一瞬走る。だが、すぐいつもの顔に戻り、
「私がどうして結界を張らなくてはいけないんだい?」
と言う。釣れた。俺は、
「叔父さん。俺は封印師と言っただけで、結界で封印するなんて一言も言ってないけど?」
と言った。叔父の表情が凍り付く。俺は続けて、
「やっぱり昨日の封印師は叔父さんか」
と言った。叔父は、
「どうしてわかったんだい?」
と言う。俺はリビングの隣の和室の方を指差し、
「鴨居に掛かってる袈裟。あの特徴的な色の袈裟は滅多にないからね」
と言った。叔父は、
「袈裟の色か・・・まさか袈裟で見破られるとは」
と言う。俺は、
「どうして言わなかったなんて野暮なことは聞かない。まあ、陰陽道の本が山ほどあった時点でなんかおかしいなと思ってたから」
と言った。以前から不思議に思っていたことだった。叔父の書斎に使われているリビングに隣接する和室には、陰陽道・霊媒師関係の本がたくさんあったのだ。叔父は、
「そんな些細なことでわかるのか・・・」
と言った。
幾ら能力者のための学校とはいえ、定期考査はきっちり訪れてくれる。俺は前の高校でもそれなりにできる方であったはずである。ところが・・・
テスト当日放課後、生徒会室。俺は、完全に落ち込んでいた。1人呟く。
「・・・・ぜんぜんダメだろうな・・・・」
と。すると、
「テストが駄目なんですか?」
と言う諌垣の声。俺は、
「いつからいたよ?諌垣。お前どうだよ?俺、結構自信あったのに」
と言った。諌垣は、
「どんくらい勉強したんですか」
と言う。俺は、
「毎日1時間くらい。前の学校でいつもそれで結構いい方だったから」
と言った。諌垣は、
「まあ私もそれくらいですよ。たぶん大丈夫です」
と言う。それ励ましになると思ってんの?励ます気もないか。俺は、
「諌垣・・・お前意外といい奴なのな」
と言った。今思えば、これがいけないのだろうか。その後、諌垣は何故かこう言う。
「鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざと言う間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです」
夏目漱石ね。『こころ』知ってるのね。
「夏目漱石『こころ』の先生の言葉だな。知ってるのな」
と俺は言った。諌垣は、
「この言葉を基準に考えるなら、私は基本いい人です。意外となんて言わないで」
と言う。俺は咄嗟に、
「す、すいません・・・」
と言う。諌垣は、
「あと、私の事は下の名前で呼んでください」
と言った。俺は言われたとおりに、
「ふーん・・・絵菜」
と呼ぶ。すると諌垣―ではなく絵菜は顔を赤くし、
「っ・・・・。いきなりは・・・その・・・」
と途切れ途切れに言う。俺は、
「・・・ああ、そう」
と答える。そんな反応されたらこっちが恥ずかしくなるわ‼と内心突っ込む。すると、
「あの、光尚」
と絵菜が言う。み・・・光尚?誰だ?あ、俺の名前呼んでんのね。俺は、
「なした?」
と答える。なんで津軽弁入れちゃったのかな俺?絵菜は、
「・・何でもない・・・です」
と言う。さいですか。
結果発表の日、俺は、結果が張り出されている職員室の前にいた。現在多数の生徒がここにいる。テストに関してはこの後返却される。俺は自分の名前を探す。すると、自分の名前を見つける。1位のところに。学年総合の順位で1位⁉そんなこと・・・て。と、ある名前に目が留まる。
総合2位 諌垣絵菜
諌垣・・・・絵菜・・・・・。2位ね。成績よかったんだ。俺は、教室に戻ろうと、東階段の方向に歩き出す。俺が教室に戻り、自席に座ると、なにか妙な視線を感じる。教室の入り口の方からだと思う。俺がそちらを見ると、誰もいない。何だったんだろう?と思ったが、特に気にすることもないかと思い、特にすることもないので、俺は机に突っ伏した。
放課後、生徒会室に行くと、何故か不機嫌そうな絵菜が仁王立ちをしている。俺は、
「どうしたんだよ?」
と言った。絵菜は、
「別に。何でもないです」
と言う。その声音は明らかに不機嫌なことを物語っている。俺は、
「何でもない・・・ね。とてもそうは見えんぞ」
と言った。絵菜は、
「テスト駄目だろうなって言ってましたよね?」
と言う。ああ、その事ね。そりゃ予想はついてたがな。俺は、
「後から駄目かもなあて言ってる時ほど良いってのはよくあるからな」
と言った。事実、俺が中学の頃もそんなことが何度かあった。絵菜は、
「まあ・・・そうですね」
と言う。納得するのね。続けて絵菜が、
「納得したわけではないですが、少なくともそういう意見には賛同です」
と言った。さいですか。俺は、
「点数言い合う?」
と尋ねてみる。絵菜は、
「いいですよ。じゃあ国語から。97点」
と言う。俺は、
「99点」
と言った。絵菜は、
「数学。91点」
と言う。俺は、
「92点」
と言った。絵菜は、
「生物 95点」
と言う。俺は、
「99点」
と言った。絵菜は、
「英語 93点」
と言う。俺は、
「97点」
と言った。絵菜は、
「地理。98点」
と言う。俺は、
「100点」
と言った。そして、二人同時に、
「合計487点。ん?大した差がないな」
「合計474点です。あれ?そんなに差ないですね」
と言う。確かに。学年総合1位と2位に大した差がないのは間違いないだろう。その日は、高次元生命体も出現することなく終わった。
その日の夜、俺は自室に置いてあるデスクトップPCで調べ物をしていた。学校のホームページ、学校裏サイトチェッカーなどのサイトを見て、そろそろ風呂でも入ろうかと、チェアから立ち上がろうとすると、うっかりキーボードに肘でもぶつけてしまったのか、キーワード入力補助が出てくる。その一番上に記されたキーワードに、俺は驚くことになった。