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家に帰りついたのはそれから二時間後の午後三時こと。
「ただいま……行ってきます!」
僕は帰るなり出かける準備をして、つむじ風のように出発した。
もちろん向かった先は桜の木の下。
僕の家から歩いて二十分のところにある丘の上にその『春小町桜』はあった。
今は葉がまばらにあるだけの寂しい状態だが、春になると満開になった薄い桃色の花が人々を迎える。
但し、険しい道を越えたところにあるため、来る人は意外と少ない。
案の定、桜の木の下には誰もいなかった。
僕は険しい道を歩いて来たために暑くなった体を冷やすために上着を脱いだ。
それから、あぐらをかき、春の満開の桜を夢想しながら日記を開いた。
────ノートの上に広がる小さな恋の駆け引き。
達筆だったために読めないところが多々あったが読んでいて胸が温かくなる恋物語だった。