えー……
俺が前世で主にやっていた楽器はピアノ、ギター、そしてヴァイオリンである。
そして、その中で一番夢中になってやっていたのがヴァイオリンである。
なのにこの世界では見つからなかった。
なぜかピアノはあるのに……。
というのも、ピアノというものは中身がもの凄く複雑な構造になっている。
その部品一つ一つを用いて作るいわば機械である。つまりかなりの文明の利器なのだ。
それに比べヴァイオリンやギターの構造はもの凄く噛み砕いて言えば、木の箱に弦が張られてるだけ。
極めてシンプル。
その構造であそこまで見事な音になるんだから不思議だ。
まあつまり何が言いたいかというと。
ピアノがあるのにヴァイオリンが無いのはなんでなんだと嘆いてたんだわ。
だが今、目の前にあるのはずっと求めてやまなかったヴァイオリンである。
これはあれだろう。
弾かないなんて選択肢はないよね。
「頼む!!弾かせてくれ!!ずっと探してたんだよー!!」
「そう言いながらすでに掴んでいるではないか……。問題はないがな」
「え?マジ?なんかこう神聖な楽器に触るな殺ーす的な感じになるかなーと」
ちなみになったら無力化してから弾く。弾かない選択肢は無い。
「まあ、そういった部分もあるにはあるんだが、グロリアを弾けるのは今では村長だけなのだよ……。だから、ここに置いて練習してもらって弾ける人を増やそうっていう話でな。だがまあ今のところ成果はない。それにここに置いてあるのは村長が弾く楽器ではなく、その予備のようなものだ。だから弾きたいのなら弾けばいい。だが弾けるのか?グロリアはこの大陸にはここにしかないはずだが何故か知っているようだし。どこでこの楽器を?」
「色々あるんだよー。人生色々さー。そんなことより弾かせろつーか弾く。ウヒョー!!!」
手に取った楽器は少し小ぶりで、前世で持っていたのとほぼほぼ同じサイズだった。
松脂はー……あったあった。
ヌリヌリヌーリヌリ。
ウヒヒヒヒヒヒヒ。
何を弾こうかなあ。まあまずは音階で指ならしかな。
そして、ト長調の音階を弾く。
ソーラーシードーレーミーファーソーファーミーレードーシーラーソー。
うん、鳴る鳴る。
なんかいい楽器じゃねえか。
調整も怠ってねーみたいだ。
弦はガット(羊の腸)だし。
ヤベ気にいったかも。
これくんないかな。
もしくは作ってもらえねえかな。
と、考えるより弾くのが大事。
とりあえず異世界での初演奏は……
バッハかな。
バッハの無伴奏ソナタ第三番。
バッハの曲で俺が一番好きなやつ。
気になったりした方はヨウツベで聴いてみて。
****演奏中****
あー……最高……。
超気分がいい。
落ち着く。
なんかこう神聖な気分。
とりあえず満足やわあ……。
席もどろ……。
つか静かだな。
ん?
なんか周りが全員何も食わず飲まずこっち見てんだけど。
あれ?
やっぱヤバかった?
そいえば音階弾いてるあたりからすでにだいぶ静かだったような気が……
とか思っているとなんかおばあさんが近づいてきた。
なんじゃ?
「…………」
なんか喋れや!
「…あーおばあさん?えー…どしたの?あ、やっぱ弾かないほうが良かった感じ?だとしたらそのー……すまないんだが……」
「…………」
だからなんか言えや!!
「…………け」
「け?」
「…………け」
「け?」
「…………結婚してもらえないかのお」
「結婚してもらえないかのお?」
は?
今なってったこのばあさん。
結婚してもらえないかのお?
え?
俺に?
「はああああああああ?!」
「…………結婚してもらえないかのお」
「いや聞こえてたよ?聞こえてたんだけど理解できなかったんだよ?」
「…………結婚し「いやだからね?おれ結婚しないよ?つかなんでいきなり求婚されてるの?」
「落ち着きたまえパスト君」
「あ、ヤクーさん。どうしましょうこの状況」
「あーその、まずは見事な腕前だったよ。聴いたことがない曲なんだが心に響く何かを感じたよ」
「はあ、ありがとうございます」
「それでだな。このお婆様はこの村の村長の母君でな。実は村長には妹がいるのだが、その、結婚相手になってもらえないだろうかとそういう意味で言ってるのだよ」
えー……。