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こんなところでまさかの出会い

 ヤクーさんと一緒に、チェニック達がキャンプしてるとこに戻ったが、ヤクーさんを見ると、全員腰を抜かしてしまった。
 だがヤクーさんは話すと礼儀正しい紳士なやっちゃんなので、わりとあっさり受け入れてもらえた。
 と言ってもそこそこビビっているようで、大分静かになってくれたが。
 お陰で非常に助かりました。


 あと、あのワンピースは、ダガンバ村のいわゆる民族衣装のようなものらしく、今ではほとんど着られていないそうだ。
 ヤクーさんがなぜ着ていたのかというと、単純に動きやすかっただけ。
 ようは、趣味。
 女装癖ではない。


 そして予定通りあれから約2時間後、ついにダガンバ村にたどり着いた。
 なんかこう、たった4日だというのに非常に濃密な時間を過ごした気がする。
 実際は全然なんだろうけど。
 疲れ果てたわ……。


 まずは村長のとこに行くことになってたのでヤクーさんとはとりあえずここでお別れ。
 ただ、宿屋が決まったら村の中心の広場に来てほしいとのこと。
 旨い飯屋を教えてくれるそうな。
 楽しみ!


 村長はパット見三十代くらいかな。茶髪の髪を短く切りそろえたなかなかキレイな顔立ちの男だった。

「どーもどーも。僕が村長のオンテス=ダガンバです。よろしくどーぞ」
「こんにちは。俺はリーダーのチェニックです。こちらこそよろしくお願いします。早速ですが依頼の確認をさせてください。依頼内容は森にいるオーガの討伐ですね?」
「そうですそうです。いやーまさかこんなところでオーガが出没するなんて思いもよらなくってですねー。恐い恐い。なのでちゃちゃっと殺っちゃってくださいねー」

 なんか軽い口調だな……。ホントに怖がってんのか?

「任せてください!でもまずは今日は1日宿で休ませてもらって、明日討伐に向かうことにします。さすがに、4日の旅は疲れましたので」
「えーえーわかってますわかってます。宿なら僕がすでに用意しておきましたよー。名前は『ニロイフの宿』です。そこに泊まってくださいねー」
「宿まで用意してくれたんですか!ありがとうございます!そこに泊まらせてもらいます。では、俺たちはこれで」


 予想外に話が早く終わった。
 まあ、特に話すことはないか。



 村の感じは、特筆することはないほど普通の村だ。
 家は大体が木造だが、たまにレンガのようなものとかで出来てる。
 実家の村より裕福じゃね?
 子供も大人も結構人数はいるが特にギスギスしてる感じもないし、王都みたいにスリがいるわけでもない。なかなか好感のもてる村だ。

 そんな風に歩きながら村の雰囲気を味わっているうちに、村長の言ってた宿屋についた。
 木造だけど、他の家よりかなりしっかりした作りだ。宿屋だから当たり前か。

 チェニックがドアをあけて先に入り、軍団が入ってドアを閉める。
 俺はまだ外にいるのにね。
 面倒なな嫌がらせやめてくれませんかね……。
 ため息つきつつ自分であけてなかに入ると、カウンターに恰幅のいいおばちゃんがいて、チェニックのイケメンスマイルにやられていた。仕事しろや。


 村長は大部屋1つと小部屋を一つとってくれていた。
 勿論、小部屋は男、大部屋は女。
 俺は一人で小部屋にいった。
 なぜ一人かって?
 チェニックが大部屋に行ったからに決まっておろう。
 というか軍団がほぼ強制で連行してった。
 お陰で一人で小部屋を使える。
 ありがとう軍団。そのまま五人で仲良くどーぞ。

 小部屋は小というわりに広かった。
 二人部屋だからかな。
 一〇畳くらいはあるしベッドも二つある。
 とりあえず少し寝よう。


 目が覚めた時には、もう日がほとんど落ちていた。
 窓から外を見ると村の明かりでそこそこ明るい。
 とりあえず腹が減ったので飯を食いたい。ってところでヤクーさんとの約束を思い出した。
 やっべえ!!


 慌てて大部屋の方に行きノックしたが誰も出てこない。
 寝てんのかな。
 しゃーないから俺1人でいーや。
 待たせただろうなぁ……。


 慌てて広場に来てみれば、予想通りヤクーさんが一人立っていた。

「ごめんなさいヤクーさん!!」
「おーパスト!よく眠れたかな?」
「え?」

 どゆこと?

「あーすまない。少し遅いなと思って、村長にパストたちが泊まる宿を聞いてそこに行ったのだ。そしたらチェニックたちに会ったのだ。そうしたらチェニックたちがパストは熟睡しているって言うのでな。それなら起こすのは悪いなってことになったのだよ。なので、先にチェニックたちを案内し、頃合いを見てここでまた待っていたのだ」

 確実に軍団の入れ知恵だな。寝れたからいいけど。

「そうだったんですか。申し訳なかったです。あまりに疲れてたもんで、ベッドを見たら誘惑に勝てなかったんですよ」
「気にするな。そんなことより、早く行こうではないか。腹がへっただろう」
「はい、へってます!」


 飯屋につくとチェニックたちはもう食べ終わっており、今は紅茶?のようなものを飲んでいた。
 俺が近づくと、

「いつまで寝てるわけ?もう私たち食べ終わっちゃったじゃない!あんたが食べてる間待ってるの嫌だから先に帰ってていいわよね?」

 と幼なじみのやつが言ってきたので、

「いーよいーよ。先に帰ってて。俺はゆっくり食べてるから」

 と、適当に返しつつ俺はその近くのテーブルに座った。
 ふんっ!と鼻をならしつつ、軍団はチェニックを連行して去っていった。そんな俺の向かいにヤクーさんが座る。

「じゃあ、ヤクーさんのオススメをお願いします!あと麦酒!」
「明日は依頼があるだろ……」
「いいんです!酒が飲みたいんです!」
「はぁ……。自己責任だからな」
「あざあす!にしても結構賑やかっすねー」

 なんて言いつつ回りを見渡す。

 と、

 ある一点を俺は凝視した。

「ん?どうかしたのか?」
「ヤクーさん。あれ……」
「あれ?ああ、グロリアのことか。あれはうちの村で作った楽器でな。祭りで使うのだ。かなりいい音がでるんだが、かなり難しい楽器でもあってな。まず音がまともに出せない。だから、うちの村ではあれを弾ける人物が村長になる資格を得ることができることになっている。そのくらいすごい楽器なのだ」

 俺が凝視している楽器。
 まともに音が出せるようになることすら困難な楽器。
 俺が前世である意味一番必死になった楽器。
 そして、この世界でずっと探していた楽器。


 その楽器は前世でヴァイオリンと呼ばれる弦楽器である。

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