【レヴィ・クラウジウス Ⅳ】
『古の遺産』などと扱いに困る物、持って帰れといわれても処理に困る。
後任者が研究を引き継いでくれるなら、国にまとめて寄付する。だからそっちで適当に処分してくれ。
養父の遺した研究資料をどうするかで揉めていると聞き、ふたりは揃ってそう申し出た。
幸いにして、生活には困っていない。養父の解明した術式の使用料だけでも、毎月かなりの額になる。
どのみち受け取ったとて、屋敷に死蔵するしかないのだ。ならば専門家の手に委ねた方が、よほど有意義だというもの。
なにより、知識もないのに取り扱いに細心の注意が必要な品物など欲しくない。
本音までぶちまけて受け取りを拒否したふたりに、けれど。
アデライート・エル・ド・イルヴォザーク陛下は、金額が大きすぎるからと言って、無理矢理『賢者』の遺した遺産を押しつけてきた。
おかげさまでこの様だ。案の定、魔導具が暴走し、か弱い女がひとり。のっぴきならない状況に追い込まれている。
「そりゃ抱き込むに決まってるでしょ。他から――魔術塔あたりから、『やはり素人では魔導具を管理しきれなかった』なんて文句を付けられる前に取り込んじゃわないでどうすんのさ」
養父の遺した研究資料は個々でさえ、下手をすれば軽く一年分の国家予算を超えてしまう値がつくものばかりが揃っている。
そんなものを数え切れないほど寄付させたとなれば、非難が集まる。
即位して約半年。まだ足場固めも終わっていないのに、あげ足を取られるような要因は排除しておきい。
そう言われてしまえば反論の余地もなく、受け取らざるを得なくなってしまったが。
扱いに困る物ようなを、山のように押しつけられた方からしてみれば、いい迷惑だ。
ベゼルが魔法使いだとはいっても、彼の専門は黒魔法――攻撃魔法である。そちらの分野では名を馳せているが、魔導具の研究などは門外漢。『古の遺産』の研究ともなれば、ほぼ素人も同然だ。
レヴィに至っては、生活魔法が少し使える程度である。
『古の遺産』についてはそちらの体面を保つために協力したのだから、真白の保護に力を貸せと迫れば、少なくとも断られはすまい。
と、いうか。もし素性がばれた時の用心として、なにがなんでも陛下には真白の後ろ盾になってもらう、と。
ベゼルがにこりと黒い笑みを浮かべる。
迷惑をかけられた分は利用させてもらう。そんな思惑が透けて見え、頼もしいやら呆れるやら。
「まあ、あの人は取り込んでおいて損はないだろうし、おまえの好きにすればいいがな。あんたはそれでいいか?」
やれやれと首を振り、レヴィは泣き声が止んでもまだ、自分の服をしっかりと握り締めたまましゃくりあげている真白の頭を優しく撫でる。
こちらの管理不足で巻き込んでしまったのだ。滞在中の扱いについては、なるべくそちらの意に添うよう取り計らう。
そう告げたつもりだったのだが。
「――……あの、泣いたりして……ごめんなさい」
レヴィの胸元でぽつりと落とされた言葉に、ふたりは顔を見合わせる。
どうにも、身に覚えのありすぎる反応だった。