【レヴィ・クラウジウス Ⅴ】
縮こまって顔色を窺わなくてもいいのだと、怯えた子供に教えるのは難しい。どうしようもない現実を突きつけられたことのある子供には、なおのこと。
根気よく、それこそ養父がそうしてくれたように。小さなわがままを吐き出させることの積み重ねで、警戒心を解いていくしかない。
かく言う自分たちもまた、いまだ拭えぬ『大人』への不信感が残っているのだ。
真白の警戒心を解くのがいかに難しいか、経験から知っている。
それでも、だからといって、真白をこのままにしておくわけにはいかなかった。
ほんの一瞬視線を交わし、レヴィは真白の相手をベゼルに譲る。どちらの口がよく回るかといえば、もちろんベゼルだ。
「いいよ、気にしないで。むしろ、君があまりにも大人しいから逆に心配してたくらいだし。精神的な負荷は、どうしたって
ようやく嗚咽をおさめ、おずおずと顔をあげた真白に手巾を渡してやりながら、胡散臭いまでの笑みを浮かべたベゼルが、柔らかく言葉を紡いでゆく。
口先だけで相手を煙に巻いてしまうのが得意なベゼルの口は、滑らかによく回る。
あれやこれやと調子のいい言葉をたたみかけてゆく口調には淀みがなく、妙な説得力さえあった。
だがそれでも、真白はまだ用心深く、上目遣いでふたりを見あげてきた。
「でも、こんなことになって、ふたりだって困ってるんでしょう?」
どうしていいのかわからない。雄弁に物語る眼差しを真正面から受け止め、レヴィは知らず苦笑を刻む。
今頃になって、養父の苦労を垣間見る羽目になるとは、思ってもみなかった。
なるほど、通りで。長じてからことあるごとに、『手懐けるまで苦労した』とからかわれたはずである。
「元はといえば、オヤジの蒐集してたもんだ。不本意であれ受け取った以上は、責任もオレたちが引き継いでいる。安心しろ。こんなわけのわからん事態に巻き込まれて取り乱しもしない奴なんぞ、どこかが壊れてるかただの馬鹿だ」
「その言い方もどうかと思うけど。あのね、真白。君はボクたちの住むこの世界とは別の世界で生きてきた人だ。なにもわからないのは当然だし、君が取り乱したって、ボクらにそれを責める権利なんてないんだよ。どっちかっていうと『ウチの
それに、君が気を許してくれないと、ずっと責められているみたいで落ち着かないんだ、と。
なおも遠慮を見せる真白に、ベゼルがさり気なく攻略法を変える。