【レヴィ・クラウジウス Ⅱ】
腕が肩から丸出しになった下着のような上着と、太腿の半ばまでを惜しげもなく晒した丈の短いスカート。
どれをとってもあきらかに、年頃の娘のする装いではない。
きょうび、商売女でさえ、もう少し出し惜しみした衣装を身に纏う。
これでは裸同然だとあられもない姿に眉を寄せかけ――レヴィは女の服装が、いまの季節にそぐわないことに思い至った。
この地方の冬はとりわけ厳しく、毎年、数多くの凍死者を出す。真冬にこの装いは、たとえ分厚い外套を羽織ったとしても、自殺行為だ。
はじめは、養父の遺した魔導具欲しさに誰かの送り込んできた娼婦かなにかかと訝った。
だが、それにしては女の服装は異様であり、ベゼルの様子もどこかおかしい。
驚愕に染まった顔を見れば、女が招かれざる客であることはわかる。
そもそも、養父の部屋にいる時点で、怪しいことこの上ないが。
自分の身体を抱きしめ小さく震え続けている女はか細く、泥棒や商売女にしては、身に纏う空気が弱々しすぎた。
ではこの女は何者か。
養父の遺した危険極まりない品物を押し込める為の部屋には厳重な封印が施され、家主であるレヴィとベゼル以外はおいそれとは入れない。
こっそり忍び込み、ベゼルの後をついて入ったにしても、女の方が部屋の奥にいるのは変だ。
いくらベゼルでも、自分を追い越して部屋の中へ入ろうとする女がいれば止めるはずだ――と考えたところで、レヴィは自分がこの部屋へなにをしにきたのかを思い出した。
ジロリと相方を振り返れば、半ば魂の抜けたような顔をして、ベゼルがこくこくと忙しなく頷く。
ついいましがた、この馬鹿は屋敷中に響き渡る声で、『界渡りの魔導具』がどうとか叫んでいたはずだ。
と、いうことは、つまり。
目の前にいるこのあられもない姿の女は――異世界人だということになる。
(――……やってくれる)
誰にともなく胸の内でそう呟き、溜め息を吐いたのが、半刻ほど前。
まさか、たった半刻後に不安で震える女に縋りつかれ、胸で泣かれる羽目になるとは、思ってもみなかったレヴィである。
「義父の遺したものを押しつけられただけだとはいえ、いま現在、魔導具の管理をしているのはオレとコイツだ。不始末の責任はちゃんと取る」
柔らかな黒髪を撫でてやりながら、柄にもなく穏やかや声が出た。
どこか様子がおかしいぞ、と感じたのは、応接室のソファに座らせてから。
ひと通りの事情を説明し終えても。気休めばかり言うベゼルを叱咤する意味も込め、レヴィが否定的な意見を口にしても。
真白は少し困ったような、曖昧な笑みを浮かべているだけだった。
感情らしきものをみせたのは、はじめて顔を合わせた時のみ。レヴィの耳を凝視し、叫び声をあげた時だけだ。
思わず、といった体で叫んだ以外、真白はずっと、感情を押し殺している。
物によっては魔導具は、精神面にも作用する。
ああ、これは不味いな、と感じたのは、ベゼルもだったのだろう。ちらりと物言いたげな視線をこちらにくれた後はずっと、注意深く真白の反応を確かめていた。
表情を曇らせもするし、涙を滲ませもする。
だが結局、真白は最後まで、ぎこちない笑みを崩さなかった。
つい手を伸ばして艶やかな黒髪を撫でたのはおそらく、自分自身と重ねたからだ。