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【帰れる……の? Ⅲ】

 片方があきらめてしまっている事柄を、もう片方はできると言う。
 縋るならどちらか。考えるまでもない。
 濁された言葉の続きを、祈るように両手を組み合わせて待つ真白に気づいたのだろう。

「ちゃんと送り返せると断言できるのか?」

 ひょいと真白を顎でしゃくり、レヴィがジロリとベゼルを睨む。
 強い叱責の宿る眼差しからほんの一瞬目を逸らし、けれど。

「――……うん、できる。送り返すこと自体は不可能じゃない」

 ベゼルは思案を巡らせながら、用心深く言葉を紡いでゆく。

「ただ、まずどれが『界渡りの魔導具』なのかを突き止めて、それから検証を重ねてだから……月単位……ううん。下手したら年単位かかっちゃうかもしれないけど……できるはできる」

 だが、ベゼルが言葉を綴れば綴るほど真白は期待に満ちていた瞳を曇らせ、レヴィは呆れた顔になる。

「話にならんな。なにかの弾みで暴走した魔導具が周囲に被害を及ぼさないよう、未整理の箱には幾重にも、封印のための結界が厳重に施してあっただろうが。それでも『界渡りの魔導具』は発動したんだぞ?」

 それはすなわち、真白をこの場に連れてきた魔導具は、ベゼルの封印を跳ね返すだけの力を秘めているということだ。
 もとより発動条件も術式もわかっていない上に、とんでもなく強力ともなれば、じゅうぶんな知識もなく触れるなど、愚の骨頂。どんな不測の事態が起こるかわからない。
 養父がきちんと仕分けして管理していた頃ならいざ知らず。使用人たちの手によって箱詰めされた魔導具は、属性もなにもかもを無視して、ごちゃ混ぜにされてしまっている。
 ひょっとしたら現代では制御不能な、強力な攻撃魔法を内包した魔導具だってあるかもしれないのだ。
 そんな状況でどうやって『界渡りの魔導具』を特定をするつもりだと、レヴィは冷たくベゼルを切り捨てる。

「だ……って、しょうがないでしょ!? 本来は黒魔法が専門分野なんだよ、ボク。魔導具の研究なんてしたことなければ、古語なんて学んでもいないんだし!」

「だから、安易な安請け合いはするなと言っている」

「そりゃあね。ボクが魔法使いの端くれなんかじゃなく、展開した術式もいっさい見てなかったっていうのなら『無理です。ごめんなさい』って言うよ? けど、黒魔法専門だとはいえ、これでも魔法使いなの。しかも、目の前で術式が展開して、一部とはいえ理解できちゃったのに、『できない』なんてこと言っちゃったら、それこそ不誠実でしょ? 魔導具の特定さえできたらたぶん、なんとかなるんだ。問題は、魔導具の特定に時間がかかるってだけで……ッ」

 親しい相手に自分の言葉を頭から信じてもらえていないことが悔しいのか。それとも、自分の力不足が悔しいのか。
 ぐっと拳を握りしめ、ベゼルが悔しそうに唇を噛む。
 真白には『魔導具』というのがどんなものなのか、いまいち理解できていない。
 水を出したり、火や風をおこしたり、他にもいろいろ。不思議な現象を起こすための『魔法』を組み込んだなんらかの道具らしい、くらいの認識だ。
 ベゼルがなにを悔しがっているのかもわからなければ、レヴィがなにを問題にしているのかもわからない。
 わかるのは、真白を元いた世界に帰すための手段がそこにあるにもかかわらず、どれがそうなのかを特定できなくて、ふたりが困っているということだけだった。


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