【それってつまり……帰れないってこと……? Ⅰ】
ひとしきりの驚愕が去ったあと。
一通り事情を説明をするから。
真白がそういって連れて来られたのは、先ほどの雑然とした部屋とは違い、上品で居心地のいい部屋だった。
白を基調とした室内の雰囲気は明るく、部屋の中央には可愛らしいティーテーブルがちょこんと置いてあり、傍らに配置されたソファもまた可愛らしいデザインだが上品な設えで、座ると身体が沈み込む。
壁の一面はすべてが硝子張りの窓になっていて、いまは日が暮れて見えないが、お茶を楽しみながら庭を眺められるようになっているようだった。
真白は今年、二十四歳になる。
背の中程まで伸ばしたまっすぐな黒髪と、くりんと丸いアーモンド型の瞳。
鼻は高くもなく低くもなく。唇といえば少し薄めで、グロスを塗ってもあまり、ふっくらとした感じは出ない。
平々凡々。悪くいえば地味。
周囲の真白の評価は、概ねそんなものだ。
きらびやかな生活にも、ドラマチックな運命にも縁遠い人生。
――……そう思っていたのに。
「つまり、なんらかの原因で、その魔導具とかいうののひとつが暴走しちゃったってこと?」
聞かされたばかりの話を自分なりに噛み砕き、真白は小さく小首を傾げる。
ある程度の事情は理解できた――……と、思う。
納得できないことだらけだし、まだすべてを信用したわけではなかったが、それでも。まずは現状を認めなければ、少しも先へ進めない。
怯える気持ちを叱咤し、真白はきゅっと唇を噛みしめる。そうしないと、上っ面だけの冷静さがどこかへいってしまいそうだった。
震える指先を握り込み、真白はそっと、与えられた毛布に包まる。
なにもかもが現実離れしていて、まるで実感がなかった。それでも、深々と足下から這い上がってくるひんやりとした冷たさが、嫌でも真白に現実を突きつける。
つい先ほどまで、真白はじっとりと肌に絡みつく湿気と、梅雨独特の蒸し暑さの中にいた。
日が暮れ、気温が下がってさえ汗ばむほど濃くなっていた、初夏の気配。
――……それが、この場所にはない。
あるのは肌を刺すような冷たさと、凍てつく寒さだ。
「う~ん。暴走……っていうのとはちょっと違うかもしれないけど、まあそんな感じ」
ひとり掛けのソファに浅く腰掛けて毛布に包まる真白の向かい側。
小さな木製のティーテーブルを挟んでふたり掛けのソファに座った大柄な男――レヴィと名乗った――の隣に腰を下ろしたベゼルが、申し訳なさそうに真白を見る。