【それってつまり……帰れないってこと……? Ⅱ】
あの後――真白とレヴィがお互いを凝視して固まってしまった後。
落ち着いて話をしようというベゼルの提案に従い、三人は応接室へと移動してきていた。
曲がりくねった屋敷の廊下も、案内された応接室も、どれもこれもが中世のお城そのもので。
真白は、尋常でないことが己の身にふりかかってきたことを、薄々ながら察してはいた。
だがこうして言葉にして現実を突きつけられると、出てくるのは溜め息だけだ。
現実はいつだって厳しく、ままならない。
それでも、今回のこれはさすがに堪える。
――……異世界転移。
漫画や小説の中のことだとばかり思っていた出来事が、まさか自分の身にふりかかってくるだなんて、誰に想像できるだろう。
芳醇な香りを放つ紅茶をひとくち口に含み、真白はほう、と悩ましい吐息を吐き出す。
「
同じく溜め息混じり。紅茶を口に含んだベゼルが、どこか遠い目をして苦い笑みを浮かべる。
肩の長さで切り揃えられたサラリと柔らかそうな銀色の髪と、まるで宝石のように煌めく濃い翠色の瞳。
身体の線も細く、上等そうなシャツを纏った肢体は、ちょっと羨ましくなるくらいスタイルがいい。
どう見ても、二十歳そこそこ。下手をすれば、今年二十四になる真白よりも若く見える。
真白でなくとも彼を見た者は皆、青年期に差し掛かった美少年だと言うだろう。
「発動した魔導具がはっきりしてるんだ。ぐだぐだ言ってないで、さっさと送り返してやればいいだろう」
対してレヴィは、それこそベゼルの父親だと名乗っても通用しそうな貫禄を備えている。
白と黒が入り混じった短髪と、鋭い瞳。真白の倍ほどもありそうな、大きくて逞しい体躯。
ベゼルが小さなマルチーズなら、レヴィはさながらハスキー犬だ。
見た目も醸し出す雰囲気もまるで異なるふたり。
それでいてお互いになんの遠慮もないごく親しげな雰囲気はなるほど。血は繋がっていなくとも家族だと言われれば、納得できなくはない親密さだ。
「それがさあ。展開してる術式の幾つかは把握できたんだけど、発動した瞬間は見てなくて。問題は、あの中の
「あー……」
ちらりと真白に目をくれた後。揃って気まずげな表情になったふたりは、同時にあらぬ方を向く。
聞けば、真白が背を塞がれた木箱すべてに魔導具が納められていてしかも、まだ未整理の状態だという。
「それってつまり……帰れないってこと……?」
知らず唇から零れて落ちた自分の呟きに、ぞわり肌が粟立つ。
いきなり見ず知らずの場所に連れてこられて、帰る手段がないだなどと。
認めたくないし、認められない。
「あ、いや。帰れないっていうか、どれが『界渡りの魔導具』か判明しないことには送り返せるかどうかの判断もつかないっていうか……面目ない」