松葉
あ、と初めに声をもらしたのは僕だった。
最期まで育ちきれなかった橙の玉が、僕の足元で光を失っていた。
それがなんとも呆気なくて、僕は灰になったそれを吸いつけられるように見下ろしていた。
「ねえ」
はっきりとした、でもどこか堅い声が目の前から聞こえてくる。
その時初めて、僕は線香花火の持ち手の部分をぐちゃぐちゃに握りしめていることに気づいた。
はっとして顔を上げると、迷子になった子どもみたいな目で、だけど必死に笑おうとする彼女の姿が目に映った。
「……うん?」
そっと彼女に先を促す。
彼女の線香花火もとっくに地面に落ちたみたいだった。
勝負の行く末は見ていなかったけれど、おそらく彼女が勝ったのだろう。
「去年の夏も、こうやって一緒に花火、したよね」
「そうだね」
「そのときにさ、来年も一緒に花火しようねって、約束したよね」
「そうだね。まさかお墓ですることになるとは思わなかったけど」
彼女のまねをしてからからと笑ってみる。うまくできただろうかと僕は不安になった。
彼女は先ほどの笑顔のまま、ぐしゃり、と顔を歪ませた。
「あのね、来年も、一緒に花火、したいなって」
彼女のその願いに、僕は何も答えない。否、応えることができない。
今この瞬間が奇跡なのであって、これから先、そう簡単に僕と彼女がこうやってともに過ごすことはできないだろうと僕はひしひしと感じていた。
「わかってる、わかってるんだよ、これがさいごなんだろうなって、でも、」
なんであのとき、来年も再来年も、これから先ずっと一緒に花火をしようねって約束しなかったのかなあって。
声を震わせてうつむく彼女の肩に、僕はそっと手を伸ばした。
しかし無常にも僕の手は――小さくなった彼女の肩をすり抜けていくだけだった。
「線香花火には触れて君のことは触れないなんて、不便な体だよね」
なるべく軽い調子に聞こえるように問いかけるけれど、彼女はうつむいたままただ首を左右にゆるゆると振る。
「あのとき、ずっと未来のことまで約束していたら、もしかしたらって、そう考えずにはいられなかった」
そうしたらずっと、ふたりで一緒にいられたのかなって。未来の約束でがんじがらめにしてしまえば、離さずにすんだのかなって。