13
自信満々に胸を張る典正の口元からは、その自身があふれ出したかのように野太い声が漏れる。
「どうだ、茉耶華、今の俺ならば異世界に召喚されるにふさわしい、そうだろう?」
それでも茉耶華は拳を固め、ぐっと腰を落としていささかもおとろえない戦意を示す。
「まだよ。まだ、わたしに勝ってないじゃない」
「ふ、強情な、ならばかかってくるがよい、手加減くらいはしてやろうぞ」
バサリと大きく羽音を立てて、典正は地上へと足をつけた。
その瞬間、茉耶華が大きく体を沈める。
足首を刈り取るような低い蹴りがはなたれた。
「ふん、甘いよ」
今の典正にとっては、その動きさえ映画のコマ送りのように全てつぶさに見える。
茉耶華の細い脚がブロック敷きの方形をなぞるように描くしなやかな弧の軌跡さえ、ハッキリと。
だから彼は大縄跳びの要領でピョンと軽く飛び上がっただけだ。
それだけで茉耶華の高速の蹴りをかわす。
しかし茉耶華とて幼いころより戦いのためのありとあらゆる技術を叩きこまれた戦闘のエキスパート――戦姫なのだ。
「まだっ!」
気合一咆、地面に両手をついて体をひねり上げ、蹴りの勢いをそのまま反転させる。
「おお、さすがだな」
典正は再び翅を動かし、その蹴りさえも届かぬ中空へと浮かび上がった。
「空飛ぶのは反則! ずるいっ!」
地団太を踏む茉耶華を見下ろせば、ふと、頭の中にアマンドの声が響く。
『なあ、典正』
「ん、なんだ?」
『うちの姫さんはなんであんなに怒っとると思う』
「ううむ、つまりは俺を異世界に入れたくないと、そういうことだろ」
『せやから、なんで典正を異世界に入れたくないか、その理由やて。確かにあっちの世界は戦う力をもたぬものにはちいっと厳しいけどな、そんでもあんなに全力で拒否らんでもええやろ』
「さあ、俺には見当もつかん」
『さよか、ほなら姫さんに直接聞くわ』
今まで重力のくびきから解きはなたれていたからだが、急に地球の重みを感じてグイと地面に引かれた。
「お、おい、アマンドっ!」
叫んでも遅い。
典正の体から抜け出した竜は悠々と翅を動かして宙にとどまっている。
翅も、角も失った典正の体は地面に向けてまっさかさま、急速な落下を続けるばかりだ。
「あぶない、テンセー!」
茉耶華の悲鳴が聞こえたような気がするが、すでに意識を失いかけた典正にはそれを確かめる術などなかった。