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茉耶華に踏み台にされた男は頭から地面につっこむようにしてどうとたおれた。
男がつぶれたぶん、より高くへ……茉耶華の体は男たちの背丈を越えて飛び上がったのだが、敵も手練ぞろい、いかにも老練された白ひげの老人がすぐさまに膝を矯めて茉耶華を追うように飛び上がった。

「ぬうっ!」

気合一咆、大きく体をかえして蹴りを打ち込もうとする。

しかし、茉耶華とて戦姫と呼ばれる戦闘のエキスパートなのだ、遅れをとることもなく脚をすらりと伸ばして蹴り結ぶ。

「く! このっ!」
「墜ちろ、小娘がっ!」

茉耶華の蹴りのほうがわずかに浅かった。

華奢な体は大きく軌道を変えられて後方へと吹っ飛ぶ。
その先には先ほどまで茉耶華が座っていたベンチがあるのだから、激突は必至。

「やばい!」

受身を取ろうと体を丸めた彼女の視界に、『なにか』が飛び込んできた。
ベンチの前に立ちはだかり、両手を精一杯伸ばしたそれは……

「お兄ちゃん!? あぶないからどいて!」

茉耶華の叫びもむなしく、彼女を受け止めた典正の体は後ろに倒れて華奢な体の下敷きになった。

「ばかっ! あぶないからどいてって言ったのに!」
「ふっ、怪我はないか」
「あんたこそ、怪我は!」
「いけないなあ、お兄ちゃんに向かって『あんた』なんて」
「かっこつけてる場合じゃないのよ!」

茉耶華が典正の体を抱いてわずかに右に体を傾ける。
大きくではなく、わずかに、というところに彼女の戦闘センスの良さが表れている。

茉耶華の体すれすれを掠めて、老練の戦士の鋭い蹴りが突き刺さった。

「ああ、もう! あんたがいなかったら、楽勝なのに!」

それでも茉耶華は彼を見捨てようとはしない。
典正の手を引いて引きたたせ、彼を背後に庇う。

「ともかく、隙をみて逃げて。このくらいの数ならわたし一人でも……」
「だめだ!」
「だめじゃないの! むしろ足手まといだから、逃げてくれたほうが……」
「それでも逃げない。俺は仮とはいえ、お兄ちゃんだぞ、妹を置いて逃げるなんてことができるか!」
「ああ、もう……無駄にかっこいいんだから」

賊たちは再び八方から茉耶華をとり囲み、じりじりと間合いをつめる。
こういった戦いにおいては、先にしかけた方が不利となる。
戦姫である茉耶華はこれを良く心得ていたが、敢えて地を蹴り付け、一番手近な若い戦士の間合いに飛び込む、と同時にこぶしをその男のみぞおちへ、深く深くえぐりこませた。

男の体がドサリと地に伏せると同時に賊は輪を崩し、茉耶華めがけて飛び掛る。

「ごちゃごちゃ言ってないで、逃げて!」

茉耶華は叫んだが、典正はそんな言葉など聞き入れる気はなさそうだ。
両手を振り回しながら賊の真ん中に飛び込む。

「か弱い少女一人に男が多人数など、恥ずかしいとは思わないのかっ!」

茉耶華はそんな彼をかばおうと体をかえす。
賊も手練れ、そんな隙を見逃すはずもなく、皆が拳を掲げて茉耶華に襲いかかる。

あわや…….というその時、夏のアスファルトの上を思わせる熱気を含んだ風が吹き荒れ、賊どもの視界を遮った。

そして、のんびりとした声。

「手ぇ貸したろか?」

茉耶華が期待を込めた声で、その男の名を呼んだ。

「アマンド!」

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