伴奏曲 9
なんとかしてこの島民達と仲良くなりたいのだが皆、忙しいときている。
少しでも休んでいるものがいたら安藤はすかさず話しかけのだが「なぜ、働かないのか?」と言い返されてしまう。
療養が必要ならば寝ていればいい。元気があるのなら洗濯でも釣りでも軽労働は探せばある。
ここで安藤は一つ溜め息をついた。
この島民達と仲良くなるには先ず働くしかない。
「働け!」と、島民達に言われてもなにをどうしていいのか安藤にはわからない。
これが一流ジャーナリストなら、さっと取材をして帰ればいいだけなのだが――。安藤では無理だ。
安藤は島をぐるりと周ることにした。
働くのはいいがもう少しこの島を知りたい。
老夫婦が自転車を安藤のために神父から借りてきてくれた。
上流階級だからこその色々なことがある。
金髪の美女が安藤に話しかけてきた。
安藤もようやくツキがまわってきたのかと思ったら結婚式の招待であった。
「なーんだ」
安藤は深い溜め息をこぼしながら「そういえば」と思う。
探れそうで探れないあずさの真相。なんとかして追えないかと思い安藤は喜んで結婚式の招待を受けた。
華々しいウエディングアーチが用意されようとしている。
「これはなんですか?」
神父がウエディングアーチに掲げようとしたものに安藤が問いかけた。ネックレスのようなものに指輪が通されている。
このリングは神父以外、けっして触れてはならない。
*
「あのね」
あずさは今日もジョンに話しかけ続けている。ジョンはいつものように荷馬車から海原に命じられたがままを貯蔵庫に運び入れていた。
ジョンはむすっとしたまま手を休めない。さすが海原の女だけある。「俺を犬呼ばわりか」なにを聞いても彼は答えない。あずさが勝手にジョンと呼びかけていた。
*
「そう、お急ぎにならずに」
誓いが終わり、華やかなパーティーへと移り変わろうとしたとき神父を安藤が追いかける。
「微笑ましいではありませんか」
安藤にとっては挙式などどうでもいい。彼女がいない歴は万年床並だ。
華やいだ雰囲気に相応しい美味しいものが食べられる。それはそれで嬉しいのだが、ガツガツと「おかわり!」などとは云えない。