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エンドレス・バッドエンド

 ルイが立ち上がる。
「さてさて、マモルさんも目出度(めでた)く正体がばれて-」
「人聞きが悪い」
「皆様も納得されたことでしょうから、ここでお開きといたしましょう」
 全員が立ち上がった。
「マモルさん?」
「何?」
「この先、全員亡くなりませんわよね?」
「百歳までと言われても保証はしないが」
 皆がドッと笑った。

「さて、皆様のお部屋をご用意いたしておりますので、特にお家に戻られない方はお泊まりください」
 結局、全員が泊まることになった。一人一部屋である。
 俺は疑問があったので、ルイに耳打ちした。
「誰から聞いた?」
「え?」
「俺のこと。……まさか、何でもお見通しって白を切らないよな?」
 彼女は、フフッと笑う。
「未来人のトマスから聞いたの」
 聞いたことがない名前だ。
 それより、いつも指輪に電話してくる未来人の名前を知らないことに今更ながら気づいた。
「そのトマスって、オネエ言葉の人?」
「いいえ、ちょっと恰幅がいいロマンスグレーの優しい叔父様ですわ」
 あのオネエじゃないようである。
(今度電話がかかってきたら、名前を聞いてやろう)

 年配の執事に案内されて自分にあてがわれた部屋に入る。
 部屋の中はミキ達の部屋と同じ家具が同じ位置に置かれている。
 疲れたのでドアに(もた)れていると、外で言い争う声がする。
 ドアを開けて様子を見ると、ミキとイヨが廊下の真ん中で睨み合っているではないか。

 二人は俺を見つけると、招きもしないのにこちらの部屋へ入り込んで来た。
 イヨが口火を切る。
「この人、マモルさんとお付き合い始めたのは、つい最近だって言うじゃないの!」
「別にいいじゃない」
「私は1ヶ月以上前よ! しかも、お弁当まで作って食べてもらったし。作ったことあるの!?」
「戦地では作りたくても作れないわよ」
「キスだって、いつしたのよ?」
「どうだっていいじゃない」
「戦場でキスなんかできたの?」
「……」
「ホラ、言えない。実は休暇初日の今日とかじゃないの?」
「何時だっていいじゃない」
「やっぱりね。ちょっとキスが早いだけで、さも長い付き合いのように見せかけて。この嘘つき!!」
「何よ!!」
「……私だって諦めていないんだから。必ず振り向かせてみせるんだから!」
「泥棒猫は尻尾を巻いて帰りなさい!」
「必ず……必ず……振り向かせてみせる!!」
 イヨは悔し涙を流しながら足早に去って行った。

 ミキは俺に抱きついて泣いた。
「こんなところ見せてしまって……ゴメンなさい」
「いいんだ。みんな俺の優柔不断が招いたこと-」
 その時、ドアをノックする音がした。開けてみると、先ほどの執事だった。
「どうかなさいましたかな?」
「いや、なんでも。騒がしくてすみません」
「お困りのことがあれば何なりとお申し付けください」
「はい」
 彼は何か他にも言いたそうな顔をして去って行った。
 ミキはまだ興奮しているので、落ち着くまでベッドに座ってもらった。
 全員救ったのは良いのだが、俺の不甲斐なさでこういう遺恨まで残してしまった。
(肝に銘じておこう。今度こそ反省して失敗を繰り返さないようにしないと)
 落ち着いたミキは、自分の部屋に戻ると言うので見送った。

 それから小一時間すると、ドアをノックする音がした。
 ベッドの上で考え事をしていたので、ガバッと飛び起きる。
 叩き方が先ほどの執事のそれに似ていたので、執事が何か言い忘れたのかと思ってドアを開けると、そこにはミキが立っている。
「部屋に入っていい?」
 許可しなかったが、彼女は中に入ってきて後ろ手にドアを閉めた。
「それはさすがに、みんなの手前、マズイと思う」
「一緒に寝るとは言ってないわ。……明日会って話をするつもりだったけど、今ここで話しておきたいの」
「何?」
「実は……」
 ミキが俺の耳元で(ささや)く。耳に当たる彼女の息がくすぐったい。
「ゴメン、よく聞き取れない」
 彼女はユックリ噛みしめるように恐ろしい言葉を口にした。
「マモルさんが変えたこの運命でも、必ず誰かが死ぬの」

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