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 これほどまでに存在を認められ、讃えられたのは、私の生涯で初めてのことだった。

 貴族たちはこぞって私の勇気を褒めちぎった。お母さまは涙を流していたが、どこか安心したように微笑んでいた。お父さまは「民のために命をかけるのが、上に立つ者の素質だ」なんてことを言っていた。

 そして、「それならお父さまがやればいいのに」──なんてことを言えるほど、私は強くないのだった。

 熱狂的に、という言葉がしっくりくるくらいに狂った空気の中で、私は持ち上げられ、流されて、たった一人冷たく暗い神殿の中に取り残されてしまった。

 拒絶や抵抗の意思など、芽生えるだけの時間もなかった。

 そのくせ隔離は厳重に行われていて、唯一の扉は私では動かせないほど重く、唯一の窓は気が遠くなるほど高い天井の明かり取りだけという徹底っぷりだった。

 神殿の中でも忌み嫌われ、だからこそ秘匿される一室があることを、誰かが噂していたような記憶が、うっすらと脳裏をよぎった。

 ──すなわち、生贄のための部屋。

 扉は、山で採石された巨大な一枚岩。閉じ込められた生贄が万一にでも逃げ出すことのないように、たくさんの男たちが専用の道具を用いて開閉するものだ。

 石に閉ざされた部屋の中で影を作っているのは、私の他には杯くらいしかない。

 満たされているのは、重罪人に投与される毒薬だ。

 飲んだ者に苦痛を与え、それでいて死ぬまでに時間のかかる恐ろしい毒杯を、私は最後に残されたたった一つの選択肢として与えられたのだった。

 飢えと渇きに苦しんで死ぬか、毒薬を飲んで死ぬか。

 どちらにせよ、私には死しか残されてはいない。

 この国が──否、この世界が飢えに苦しみ始めて一七年が経過した。

 太古の時代から、死を司る神・アッシュが引き起こす災害は全ての国土へ様々な打撃を与えてきた。

 今回はそれが「飢饉」で、農耕地の少ない王国クリッフェントは滅亡の危機に陥った。

 クリッフェントの現王がお父さまで、私はその末娘だ。

 とりたてて賢いわけでも、美しいわけでもなく、秀でた一芸もない。王位を継承する可能性だって絶望的に低く、かといって政略結婚にふさわしい相手がいるわけでもない。

 そんな王女が、贄となる以外にどうやって役に立てるだろうか?

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