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抒情詩 2

 苛立つ自分、優しくしてやるだけのことではないのか、
 分かっているはずなのに――。
処置をすませたばかりの由紀恵になんと答えてやればよかった。そればかりを考える。
「和也か」
「依頼が入った。頼むよ」
「無理だ」
 気配を消しても存在を消せる訳ではない。絶妙な間合いをとったままの和也に気づいた。
「由紀恵は?」
「車のなかで寝ているよ」
 頷いたまま松島は動く気配がない。
 真崎が息絶えた場所こそが唯一の拠り所であった。
 疎まれ続けた自分、捨てた過去、虚勢を張る今。由紀恵になに一つ語ることができないでいる。
「一人にしてくれ」



 脳が人の死ならば、
 認知症をなんと捉える?

 無理に押し付けられた写真がある。

 平成十五年、介護保険法が改正。
 地域包括支援センターが設置された。
 高齢者虐待は幼児と比べ、表沙汰になり難い一面があった。

 忘れてしまいたい現実など、言い訳にしか過ぎない。
 由紀恵は眠った振りを続けている。
 彼女なりの抵抗をどう受け止めてやるべきか、呟く言葉が虚しさを描く。


 作り上げた顔立ちが今にも泣き出しそうだ。

「私の顔は奥さんの顔だから」
 捨てた男への当てつけ、
 女になることもそうなら、整形した理由もそうであった。
 ストーキングを続けた挙句が自殺未遂。
 和也からの相談が私情を挟む形となった。仕切り屋失格である。
 彼女はストーカー行為を止める変わりに条件をだした。無論、切り捨てる内容であったはず――。
 気がつけば隣にいた自分。
 和也に幾度問い詰められようと構わないでいた。


 独りになることを極端に嫌う由紀恵は頻繁に電話をかけてくる。
 店が終わり、アフターをすり抜け、朝を待つ日々が続いていた。
 決まってかけてくる時間がある。
 早朝ほど由紀恵が緊張する時間はない。
 言葉に気遣いがある。早い時間にかけた侘びが並び、詮索が始まる。
 疎ましい言葉ではなかった。
 探りをいれる言葉に不安だけがある。

 けっして会いたいとは言わない強い約束があった。
「ごめんね」
 背中越しの言葉が滲んでいる。
 あれだけ約束したリストカットをまた始めたのだ。
 理由は聞くまでもない。
 創られた美は探索の的であった。興味本位に覗こうとする疚しさが由紀恵を傷つけていた。

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