星屑の漂流者
「『星屑の漂流者』に、愛をこめて……」
★☆★
私は長い長い、夢を見ているのか。周囲はあくまでも無音で、生き物の声の一つと聞こえてこない。
ここは宇宙だ。ただ自分は浮いているだけで、どこかへと、流星のように流れていく。速度は恐ろしい程なのだろうが、そんなものを感じている余裕も無い。
どうして私は、こんな宇宙空間で生きていけるのか。そんなこと聞かれても分からない。ただこの物語がSFファンタジーであることを考えるなら、自然な話ではないか。この世界は人間界と同じようで、全くの別物なのだから。
さて、『とある恒星に生きるルリアは祖国に歯向かって、代理の王である兄ティリシアに刃を向けた。我がルリア軍と、外国からの使者アルトリア率いる軍との共闘を試みるも、彼の圧倒的な力に敵うことはなかった。やがて不思議な杖による吹き飛ばしを受けたことによって、宇宙を彷徨うことになる』というシナリオは終えた。ここまでは、自分の筋書き通り。間違いは何一つとして無い。
私はシエンス・Aとティリシアに打ち勝って、この先の未来を変える。
でも、計画上これから記憶を失ってしまう私が、本当にそのような予定に無い行動を取ることが出来るのだろうか。筋書き通りでないため心配だけれど……。
いやいや、今更後戻りなんて出来るわけがないじゃないか。
この世界に私を入れ込んだ、あの金髪フェアリーの言うことを信じよう。私にはそれしか残っていないのだから。
さあ、もうすぐ私は地球……アストガイアに落下する。何故大気圏で燃え尽きないのか。多少不安はあるけれど、きっとそれもSFファンタジーだからどうにでもなるだろう。あの子は「ファンタジーじゃない。オカルトだよ」って否定するだろうな。多分。
そこで会える『彼』が、本物のあの子でないとしても、私は構わない。愛していたあの子のほぼそのものが、私の目の前に現れることになるんだ。何て不思議なことだろう。
今までの女作家としての、変わった生活を棄てて私は生まれ変わるんだ。今までの記憶の、何もかもを消し去って。
何だか、異世界転生的な何かを感じないこともない。自分の作った物語の中に居るのだから、それとはまた別か。まあいいや「自世界転生」で。
……いや、良く考えたら転生とも、生まれ変わるのとも違うのかもしれない。別の存在として生きるということかもしれない。それは記憶がある今は分からないけれど。どうでもいいか。
「(新たな私……ミライは、ルリア……いやベガに)」
ああ、考えてばかりで眠たくなってきた。きっと、起きる頃には地上だろう。思い出の地、星屑ヶ原に落下する。物語は……そこから始まるんだ……。
やがて私は、大気圏を抜けていく。流星のように身体を光らせ、良く知る世界。全てが繋がるあの場所へ……。
「助、けて……」
いき、が、うま……ぐ、でき……ない。
わた……し、この……まま、しん……じゃう?
「誰か……誰か、助……けて……!」
ぐる……しい……よお……。
ここ……ろも……から……だも……。
さ……び……しい……よ……。
「待ってて! 今そっちへ行くから!!」
あ、あ……ルイ……ルイの……こえ……!
わた……しの、だい……すきな……!
あ、あ……ルイ……が……そこに……いる……。
「わた、し……やっと……やっと、だ、よ……」
うれ……しい……。
これ、で……。
「やっ……と……会、え……」
「君大丈夫!? もしもし、もしもしー!?」
あい、し、て……る…………。
★☆★
――私の「ベガ」。あなたに私の身と心を預けよう。
そうして私の「ルイ」と共に、この世界の真実を知り、記憶を取り戻して……。