終わりの始まり
悪意満ちた希望の祈りだった。
「人々が救われますように」
そう一言だけ言い残し、アクワーはその場を去った。
アクワーは一つだけ確信していた。人は産まれながらにして残酷だと。
アクワーは産まれてすぐに両親をなくした。赤ん坊だった彼一人で生きていくなんて無理だった。だから不本意ながら親戚の厄介になっていた。
「ただでさえお金がかかるのに!」
それが育ての親が遺した全てだった。
中学生になる頃には、自分の存在価値がここにないことは気がついた。
「早く大人になりたい」
それがアクワーにとっての口癖だった。ひどく曖昧な気持ちだったことは間違いない。なんせ自分自身の存在価値すら理解できてないのだから。そんな折一人の悪友が出来た。
彼は常に何かと戦っていた。それがアクワーにとっては眩しく、憧れだった。
「隣のクラスのやつがうちに乗り込もうとしている!やられるわけにはいかない。こっちも準備だ。」
今思えばどこから仕入れたかわからないような、おかしな話だが彼が本気で話すのを見ているとわくわくが止まらず、信じたかった。
そしてある日、二人は作戦を決行。
エアガンを持って隣のクラスへ襲撃をしたのだ。
語るにはひどくつまらない話になってしまうのでやめておくとして、結果、当然のことながら二人は停学処分となった。だが、悪友は自ら学校を去っていた。最後にアクワーが悪友と話した時、二人には友情あるいは戦友のそれと似たような感覚があったことは間違いない。
だが今となっては記憶がひどくあやふやである。
アクワーは育ての親から虐待を受けていたせいで、たまに記憶が抜け落ちることがあった。全部がないわけじゃない。自分でやっているはずのに、誰がやっているようなそんな感覚だった。
この1件からアクワーにとって何をするか?はさほど重要ではなく、誰とするか?が大切になっていった。しかし一人になってしまったアクワーは学校でも浮いた存在となってしまった。だからこそというべきか、やがてアクワーはパソコンに興味を持つようになって自分の世界で生きるようになっていった。