Hello world!!
目前には赤い柱が複数ゆらゆら左右に影を動かしている。体は熱く、息は途切れてしまっている。なのに息を吸えば喉が焼けてしまいそうだった。周りではうめき声が至る所から聞こえて来る。そして火柱より上方には黒き巨大な竜が空を旋回し、一瞬止まった。かと思うと大きな口を開きこちらに向かってこの世とは思えない叫び、咆哮を浴びせてきた。そして数秒後、黒き竜は翼をたたみ、急降下をはじめた。そしてまた一人、炎に焼かれた。
「ハンニャァァァァァー!!」
できる限り大きな声を出した見たが虚しく響き渡るだけだった。
この場で立っていられているのは2人しかいない。
戦士キャシャーンと騎士ホワイティだけだった。
「唸れ雷、ギガスマッシュ!」
ホワイティの剣からまばゆい光が線上に放出し、黒き竜目がけ一直線に飛んだように見えた瞬間、すさまじい轟音を立て、白い煙が黒き竜を包んだ。衝撃は周りの炎を一瞬消す程の威力があった。
「やったのか…」
と思ったのも束の間で、白い煙が収束していくのが見えたが再び黒き炎がホワイティに向かい放たれた。俺からホワイティまでは100mほど離れているにも関わらず、熱さが伝わってきた。それほどまでに黒き炎の温度は高い。黒い炭のようなものがホワイティがいた場所から崩れ去っていくのが見えた。
「あぁ」
溜息にも似た声がこぼれれた時に
「よくも・・・」
そう言いながらキャシャーンが竜に届くほどの大ジャンプを見せ、両手で掴み背中にぶつからんばかりに斧を振りかぶって飛び上がっていた。
「キィィーーーーン!」
金属と金属がぶつかったときに大きな音が辺り一面を包んだ。が、硬い甲殻に斧ははじかれてしまい、キャシャーンは反動で上体を押し戻されていしまい、無防備な状態になった。また黒き竜はキャシャーンに目を向けたが、黒き竜には一切ダメージを与えられていないように見えた。
ハエを払うかのように黒き竜は体を回転させ、しなった尻尾がブォンと音を立てた時には、キャシャーン数メートル吹っ飛ばされてしまっていた。
もうだめだ。この場で闘えるものはみなやられてしまった。だが頭は冴えていた。
確かこの黒き竜はシャドウと呼ばれる特別な悪しき竜だと思う。黒いオーラをまとい、体は金属のように固く、口から放たれる火球は数千度を超えると言われている。そして、シャドウに殺されたものは、魂までもが消えてしまうという話だった。
頭とは裏腹に体は動かない。情けない話だが、シャドウが現れた瞬間に放たれた火球をほぼ直撃してしまっていた。とっさに致命傷は避けられたが、しばらくは動くことができない。
諦めかけた時に、黒き竜と目が合った。
「おしまいだ」
そう思い、奴の口から黒き炎が一瞬見えたと思ったあとから記憶がない。
ここまで俺が覚えている奴との最後のシーンだ。
ここから先はどうなったのかわからないが、この状況を見ると察しはついた。
あぁ、黒き竜に殺されてしまったんだろう。
殺された、といってもこれはパート・オブ・ワールド内の出来事である。
俺はVRMMOとして遊んでいたが運悪く黒き竜に遭遇してしまい、惨敗してしまっていた。
普段なら死んでしまうとその日行ったデータが消えるだけに過ぎないが、今回は魂まで消えてしまうというシャドウに殺されてしまった。一体どんなペナルティなんだろうか。そんなことを考えていた。しかし、ここはどこなんだろう。なんか見覚えがある気がするのだが。
周りを見渡すと、森に囲まれた神殿の中にいるようだった。
神殿は石が積み上げられた簡易的な造りのもののようだ。前、後ろにそれぞれを囲むように巨大な柱が4つ、そして目の前には渦が見える。この渦は水色できれいな渦巻きとなっている。見ていると吸い込まれてしまいそうな、そんな感覚に襲われた。
「・・・もしかして」
そうか、この渦はどこかで見たことがあると思ったが、初めてパート・オブ・ワールドに来た際に訪れた場所にあったような気がする。なんでここから始まるのだろう。あれ以来一度も来たことがなかったと思うんだけど。
と、考えていると1つの最悪のシナリオに行き着いた。焦る気持ちを抑え、まずはゲームメニューを開こうとした。が何も表示されない。おかしい、メニューが出せないことは今までなかった。利き腕ではないほうの手首を円をなぞるように描くと表れる仕組みだ。数回試してみた後、利き腕でも試してみたが、何も起こらない。
気持ちはかなり焦っていた。そのときふと目に渦が目に入った。
恐る恐る近づいてみたが、やっぱり想定した事態は正しかった。
渦から声が聞こえる。
「ハロー、パート・オブ・ワールド」
そう、これは、ゲーム開始時の初期設定の場面だ。
ここですべてを悟った。シャドウに殺されたペナルティーとはキャラクターデータの初期化だったのだと。