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間違った愛情


「シロは私の一番の親友だよ」
俺はハムスター。この家の小学生の娘に飼われている。

彼女は俺をよく可愛がってくれている。どうやら一番の親友と思っているようだった。
しかし、彼女はどこかズレていた。その愛情の方向性が間違っていることがたまにある。というか頻繁にある。

冬の寒い日の事だった。
だがまぁ、それは人間に言わせてみればという話で、体毛で覆われている俺は別にそこまで寒くはない。
「寒いよね?シロ?」
そう尋ねてきた彼女はゲージから俺を取り出すと、人間が使うサイズの布団を乗せてきた。

ちなみに「シロ」というのは、彼女が俺につけた名前である。
正式名称は「白身魚(しろみざかな)」
未だに、俺はそのセンスを理解できていない。俺の体はもちろん白くないし、ハムスターにつける名前ではないだろう。魚という文字が入っている。

「シロもオシャレしたいよね?」
そう言いながら、彼女が来ているスカートの上に座らされた事があった。
・・・普通こういうのって俺専用のサイズを用意するもんじゃないのか?
「良かったね。似合うよー、シロ。」
文字通り、俺はただの布切れの上にいるだけである。似合うもクソもない。


善意で行っていることなのだが、全て方向が誤った愛情なのだ。




「シロも一人じゃ寂しいでしょ?」

ある日、彼女は心配そうにつぶやいた。嫌な予感がした。
ハムスターというのはそこそこに値段が張る。今ですら彼女の母親が大半の世話をしているのに、2匹目を簡単に飼ってもらえるとは思えない。


だが彼女は嬉しそうにランドセルを開く。中から蠢めく数匹の「それ」が俺の視界に写った。
「いっぱいいたよー」


確かに俺の仲間だが・・・。


グレーの体をした、げっ歯類の仲間たちが俺のゲージへと入ってくる。





そんな彼女も、今や3人の子の母親。
もちろんハムスターの俺はとっくに死んでしまっている。


しかし、リビングに飾ってくれている自分の写真を通して、俺はいつでも絵里ちゃんのことを見守っているのだ。

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