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難しくない質問のはずだった。
ヴィオレの前に、そういうレールが敷かれていたからだ。レールを敷いたのはレゾンで、言われるがまま、教えられるがままに生きてきたヴィオレに拒否権などないし、権利を放棄するのも当然の流れだった。
しかし、その答えは全てを語っていないような気がする。
ついさっき咄嗟にはぐらかしたなにかが、掴みとれなかったなにかが、ヴィオレの前に尻尾を見せていた。
「私がなにかの役に立てるから」
息をのむように、ノイズが消えた。
「だから、私はレゾンの計画に同意した」
「封印計画、か」
絞り出すような口調で、レゾンが言う。
「あれは──あれは確かに、ヴィオレでなければ、ヴィオレがいなければ発案しなかった。同じ環境を強制的に作ることはできるが、あまりにリスクが高すぎる。浅間に近づくペストも、操作することはできない」
ヴィオレが上層で産まれ、塔の上でハイジアに発見されなければ。
十年前、念動力を持つペストが浅間に接近し、ハイジアたちに討たれなければ。
五年前、ハイジアになるために十分な成長をしたヴィオレが、健康体でなければ。
「念動力で汚染源を埋めて、開かないようにするだけだったのになぁ」
ようやく繋がろうとした可能性の糸が、まさか「念動力が体表から五センチの範囲に限定されなければ」という条件で切られるとは、思ってもみなかった。
当時レゾンから受けた説明によれば、現在の放射能汚染は地下深くに埋められた放射性廃棄物が開封されたことから発するらしい。封印するための物質自体はまだ残っているはずで、念動力さえあれば再封印は不可能ではない。
ヴィオレの組み替えやすいDNAがあれば、念動力を発揮したまま仮死状態に陥らせることも可能で──実現すれば半永久的に汚染物質が封印されるはずだった。
「──もう終わった話だ」
流れを断ち切るように、レゾンは言った。
そうだね、と応えた息は、ヴィオレが意識したより重い。硬く冷たい床すら、溶けて沈み込みそうなほど。
「なんで私は失敗作になっちゃったんだろう」
風のようなノイズが、強さを増した。
「中途半端に、生き延びちゃって……成功してれば、役に立てたのに」
呟いたヴィオレに応えたのは、ただの騒音と化したノイズだった。
たとえるなら、浅間の外で急制動をかけたときの、靴底が地面を噛む音に似ている。断続的に鳴るノイズとは裏腹に、レゾン自体にはなんの変化も起こっていないから、おそらく内部に異常をきたしたのだと考えられた。
レゾンは自我を持つ人工知能だ。アウトプット装置に接続した状態で電脳内に乱れが生じれば、その乱れはノイズとなって外に漏れる。仮にこれがスピーカーの故障によるノイズだとしたら、スピーカーに取りつけられたランプが赤く点灯するはずだった。
「レゾン……?」
ヴィオレの声に応えるものはなかった。
むしろ、ノイズは完全に消失した。スピーカーが切られたのだ。
「なにか隠してるの?」