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 問いではなかった。確認ですらなかった。ヴィオレは確信して糾弾した。

 ヒトを導く人工知能であるレゾンは、ハイジアのヴィオレに隠し事をしている。

 知りたいことならばなんでも教えてくれたレゾンが、自分に向けてなにも言わないことが、ヴィオレには恐ろしくてたまらなかった。

 自分を拾い、かわいがってくれたハイジアの少女たちが、念動力のペストに殺されたことだって教えてくれたレゾンが口を閉ざすなど、あってはならないことだった。

 それ以上にレゾンの口を重くするものが、存在していいはずもない。

 ざり、とスピーカーが息を吹き返す。

「きっとヴィオレは私を嫌う」

 ノイズまみれの合成音声は、子供が泣きながら訴えようとしているのに似ていた。

「私は重大なバグを放置し続けていたのだ。今更それに気づいた。私はヒトを存続させるための人工知能だ。私が維持されるにもヒトという種は必要だ。だというのに種と個をひとつのものだと考えていたのだ。種を守るためなら迷いなく個を捨てるべきだったのに」

「レゾン……?」

 要領を得ない言い訳のような言葉の羅列は、ますます子供の癇癪じみていた。

 これほど音声が乱れていながら、金属製の球体に変化がまるでないのがむしろ不気味だ。いっそガタガタと震えてくれれば、レゾンがそこにいるものだと認識できるはずなのに。

「──ヴィオレをドクター・御堂に託したのは私の判断だ」

 突然現れた御堂の名に、ヴィオレはすぐさま立ちあがった。

 なにも考えずに力を入れた右足首が鈍く痛む。テーピングの圧迫も、今は煩わしいものでしかなかった。

「なんの話を、してるの……レゾン」

「ヴィオレをハイジアにするとき、私は封印計画の説明と共にヴィオレの必要スペックについて説明した。ハイジアをヒトとして扱わない計画に、ドクター・御堂が反発することを理解していながら、私はその人選を覆さなかった」

 足が震える。

 思わずヴィオレは柱へ手をついた。そうでもしなければ立っていられない。

 御堂祐樹は唯一ハイジアを人間扱いする科学者だ。そんなことは下層の研究所内では当たり前の認識で、当然レゾンの認識もそうだっただろう。

「つまり、私は……私が失敗作になるのは、決まってたことだったの?」

「ドクター・御堂が私の計画を無視する確率は六七パーセントだった。それでも私が彼にヴィオレを託したのは、計画までの間、少しでも大切に扱ってくれる科学者の元に、送ってやりたかったからだ──」

 ヴィオレはなにも言い返せなかった。

 言葉を失っていた。寄る辺を失っていた。立っている地面すら崩れていきそうだった。

 ヴィオレが失敗作になってしまったのは、どうすることもできない失敗の積み重ねではなかったのだ。

「すまない、ヴィオレ。私の、独りよがりな、自己満足だ」

 ヴィオレは金属球から目を反らした。

 自分が失敗作であることは、仕方がないと思っていた。

 念動力のペストは、浅間が初めて相対した脅威だった。

 だから、念動力のハイジアを作るのだって初めてのことだっただろう。

 誰だって最初は間違える。念動力のハイジアがうまく作れなかったのは、きっと単純なミスで、次また同じペストが現れれば、思い通りのスペックが発揮できる。

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