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第199話 済んでからの大人の意見

「兄さん、良いんですか?またクラウゼ少佐達が何か始めてますよ。どうせ西園寺大尉に来た客との会話を覗き見ようってところでしょうね。止めないんですか?」 

 隊長室に入るなり管理部部長の高梨渉参事はそう言うと腹違いの兄である司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の顔を見ながらソファーに腰掛けた。

「まあいいんじゃないの?いわゆるあいつら流の気遣いって奴だよ。アイツ等も今回の件で俺等の仕事が結局何が出来るのか、何が出来ないのかがわかったんじゃないかな?結局は俺達の立場じゃ事件が起きなきゃ動きが取れない、終わったときには被害者の涙ばかり。あんまりおいしい仕事じゃ無いってことだよ俺達のお仕事は。だからたまにはいたずらをしてすっきりさせてあげるのも隊長の仕事なの」 

 嵯峨は安城秀美が土産に持ってきた羊羹をうまそうに頬張る。その姿に立ったままで二人を見つめる安城秀美は大きくため息をついた。

「いつのもことだけど……そんな部下の使い方しているとそのうち足元掬われるわよ。今回の事件だって嵯峨さんが東和陸軍に行ったってことは07式の投入とあの法術覚醒プラントが地下から行ったクバルカ中尉の隊の武装くらいじゃどうにもならずに地上に出てくることは予想してたんでしょ?」 

 その声に頷きながら湯呑みを包み込むようにして持った高梨は同意するように大きく頷いた。

「なに、忠告したってやることは同じなんだからさ。まあ俺は隊長なんて柄じゃねえことはわかっているんだ。今回だって連中の退職願を握りつぶした後、俺の辞表を司法局長代行の明石のタコ野郎に提出したんだけどさあ……」 

 嵯峨は机の引き出しから誠達が提出した退職願の束を取り出した後、びりびりに引き裂いた。

「また握りつぶされたの?これで何度目?と言うか、辞める気なんか本当は無いんでしょ?この『特殊な部隊』の隊長が務まるのは遼州には嵯峨さんくらいしかいないもの」 

 噴出す安城に嵯峨は情けない顔をしてみせる。高梨も呆れたようにその光景を見つめていた。

「でも今回は国際問題の方は一日の電話会談でけりが着きましたが東和国内と遼北国内はかなり事後処理に手間取りそうですね。東都軍部の上層部と同盟厚生局の幹部連中はかなりの数の諭旨免職処分が出たそうですが……まあ厚生局の背後にいた遼北では大粛清の嵐だそうですよ。やっぱりあそこは東和の繁栄を妬んでて誰かが背後で糸を引いてたんじゃないですか?」 

「東和陸軍の解雇組は身分が自由になれば好き勝手なことを言い出しかねないってこと?まあそれを相手にするほどマスコミも暇じゃないでしょ。まあ甲武やゲルパルトなんぞの地球人至上主義者や東和の妄想遼州人のネットユーザーが騒いで終わりよ。それに遼北の事は遼北の国内問題だもの。内政不干渉が同盟機構成立の絶対条件だったでしょ?そんな人の国のことまで俺は責任取れないよ」 

 安城の一言を聞いても高梨は納得がいかないというように頭を掻く。小太りで小柄と言うまるで兄の嵯峨とは似たところの見えない彼から嵯峨に明華が視線を移した。

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