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第167話 すべてを消しに来た男

「神前の馬鹿!後ろだ!来たぞ!」 

 かなめの叫び声が響いた。そのままかなめは銃のグリップでベランダに向かう窓を叩き割って銃を構えた。その先を振り返った誠の目に飛び込んだのは小型リボルバーを手にした北川の姿だった。

「行き掛けの駄賃とばかりに寄って見れば。コイツは驚きだ!かの有名な神前誠曹長がいらっしゃるとは!今からでも遅くないよ。我々の仲間にならんかね?そんな用済みの基礎研究者の代わりなんていくらでもいるが、君の代わりは中々居ないんだ。どうだね?」 

 再びかなめの銃が火を噴いた。しかしその弾丸はすべて北川の展開した干渉空間に飲み込まれて消えた。北川の干渉空間は対法術弾の効果すら受け付けないほど強力なものであることはその事実からうかがい知ることが出来た。その事実に誠は驚愕した。

 北川はその間にキッチンの後ろに姿を隠した。同時にドアが開き、銃を構えたカウラが誠とカウラに視線を送っていた。

 不意にすすり泣くような声が聞こえるのを誠は聞いた。それは片桐博士の笑い声だと理解するまで誠は呆然と彼女をかばうように身を寄せて立ち尽くしていた。

 カウラが手を上げて北川の隠れたキッチンの前にかなめを進めようとするが、それを見ていた誠の腕を片桐博士は振り払って立ち上がった。

「危ない!死ぬ気ですか!あなたは!」 

 誠が展開した干渉空間ではじくような音が響いた。軽く手だけを出して撃たれた北川のリボルバーの弾丸が鳴らした音だと気づいたかなめが突入するが、すでにそこには誰もいなかった。

「ったく……毎度そうだが逃げ足だけは早いな。さすが元学生運動活動家だ。この逃げ足で公安から逃げてたんだろうな」 

 舌打ちをしながらかなめが腰のホルスターに銃を仕舞った。そしてそのままかなめは土足で片桐博士に歩み寄った。

「なに?刺客が来たってことは私はもう用済みなんでしょ?話を聞いても無駄なんじゃないかしら。厚生局の壁を同盟機構のおまけに過ぎない司法局の方々が超えられるとは私は思わないけど。それに連中は遼北の威光をかさに着ている。外交問題になるわよ」 

 そう言った博士をあらん限りの敵意をこめたかなめのタレ目がにらみつけた。いつ手が出るか分からないと踏んだカウラも銃を収めて片桐博士を見据えた。

「遼州同盟司法局です。お話、聞けませんかね。貴方は同盟厚生局の違法法術研究の基礎理論関係を担当していた。その事実について知っているすべての事を話していただきます」 

 ドアを開けて入ってきたカウラの静かな一言に再び落ち着きを取り戻した片桐博士が元の椅子に腰を下ろした。誠は手にした拳銃のマガジンを抜くとルガーピストルの特徴とも言えるトルグを引いて装弾された弾丸を抜いて腰を下ろした。

「あなた、ゲルパルトの人造人間『ラスト・バタリオン』ね。その髪の色、染めた訳じゃないのはすぐに分かる。普通の人間とは違う設計で作られた『戦う繁殖人形』。その運命をあなたは受け入れているのかしら?」 

 エメラルドグリーンの光を放つカウラの髪に片桐博士は少しやつれた笑顔を向けた。その質問を無視してその正面にカウラ、隣にかなめが座り、誠は博士の横に座る形になった。

「そんなカウラの素性なんてどうでもいい。聞きてえことは一つだ。この前の同盟本部ビルを襲撃した法術師の製造にあんたが関わったのかどうか……いや、アンタは基礎理論の研究者だからそこまで知ってるとはこっちも思っちゃいねえよ。アンタは自分の基礎理論を厚生局の役人に教えたのかどうか。そして、臨床の研究者をどう指導していたか。それだけ教えてくれればそれでいい」 

 明らかに嫌悪感に染まったかなめの言葉、その言葉を聞きながら片桐博士はテーブルの上に置かれたタバコの箱からミントの香るタバコを取り出した。

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