82.文華を襲う者
『佐竹 機動隊長』
サタケキドウタイチョウ・・・・・・ああッ私のことだ。
『ポルタ社の社長、真脇です』
達美さんの、お兄さんからの連絡だ。
『同じ作戦区域での、七星実験隊による作戦の許可を申請します』
機動隊長、って肩書きは、何度言われてもなれないね。
それとも、私が子ども扱いされつづけてるのかな。
だったら嫌かも。
『こちら、佐竹 うさぎ機動隊長。
作戦を承認します』
巨人は、文華におおいかぶさったまま。
転がった遠隔操作ロボットのカメラも一緒に。
そこは、百万山神社から延びる2本の道のほかに、川沿いを走る道につづく道も繋がる、十字路なんだ。
だから、すごく広くて、目立つんだ。
なのに、逃げようとも構えようともしない。
巨人は全身が宝石のような黒い炎の固まり。
『うさぎ、選手交代! 』
達美さんが通告した。
と同時に、巨人の背中がオレンジの炎を受けて飛び散る!
私を追い抜いていった、七星のうち6機。
ジェットで空中に制止して、半円形に広がり、取り囲む。
その腕につけられた機関砲が、容赦なく連射する。
あの中には達美さんも武志さんも、真脇社長もいる。
七星と、こん棒エンジェルスのサイズは、ほぼ同じ。
巨人の体が揺らいだ。
それでも、動かない。
ガリガリ ゴリゴリ
あれ?
路上のカメラが、何かを引っ掻くような音を拾ってる。
攻撃の音と、違う?
機関砲が時間を稼いでる間に、残りの七星は道路ぞいに並んでいた。
リッチー機がいないから、5機だ。
連射が止まった。
まず突っ込んだのは、七星じゃなかった。
ボルケーナさんだ。
『しっぽパンチ! 』
路面のカメラにも届く大声。
その姿はしっぽを下におろして飛ぶだけ。
全長はどう見積もっても2メートルほど。
なのに電線が切れる。
カメラをはねあげ、信号機をねじ曲げて、巨人をずり動かした!
アスファルトがグシャグシャにめりこむ!
続く七星は、青い光の槍を付きだしていた。
左手には同じ光で作られた盾を持っていたけど、今は使わない。
両手でかまえ、突く!
その勢いのまま、飛び去った。
続いてピンクの刃のハルマードが叩きつけられた。
長い柄に大きな三ヶ月型の刃をもつそれは、すごく重そうだ。
固いはずのアスファルトが、また飛び散る。
七星は、リーチが長く、重い攻撃の順番に襲っていた。
次は、赤い薙刀が叩きつけられた。
白い反りのある、日本刀そっくりの刀が振り下ろされる。
最後は緑の短剣、二刀流。
この人がもっともハデだった。
ダンスのように両腕を広げ、スピンしてる。
まるで、緑の竜巻だよ。
そのすさまじい勢いのまま、頭から飛んでいく!
カガガガガ!
巨人に無数の切り傷が刻まれる!
次々に襲う攻撃は、アスファルトを巻き上げたまま、辺りをおおいつくした!
交差点には、警察署もある。
まだ人がいるはずだけど。
ごめんなさい。
切り突けた七星たちは、交差点を囲んで巨人を見張り、かまえる。
巨人は・・・・・・まだ人の形をしていた。
ガリガリ ゴリゴリ
「この音、なんですか? 」
カメラはレンズが割れたのか、映像ははっきりしなくなった。
だけど、音はとらえてる。
攻撃の音じゃなかったんだ。
その音は、やっぱり何か引っ掻くような音。
『・・・・・・タケくん、一緒にきて』
達美さんだった。
謎を解き明かすために動きだした。
『アイツをひっくり返したいの』
それに対する答えに、迷いはなかった。
『うん、わかったよ』
それに会わせて、地上にいる5機とボルケーナさんも動きだした。
『捕まえるの、任せて』
青い盾が道路いっぱいに、6人を守るために広がる。
七星たちが使うあの光は、魔法炎に似たものみたい。
ただし、形は変えやすいものらしい。
達美さんと武志さんの機体は、ボルケーナさんたちの突撃と同じ軌道と速度で飛んだ。
違うのは、素手であること。
手は平手で、体まで引きつけている。
お相撲の突きを放つ直前のように。
『どすこーい!! 』
ドドン
お相撲の突き、そのものだった!
少なくとも達美さんにとっては!
ただし、軌道は急な角度を描いて、空へ延びていく。
巨人は下からの衝撃にひっくり返され、青い盾に叩きつけられた。
盾が消える。
うしろに並んだボルケーナさんと七星たちが飛びかかった。
そのとき、見えた。
巨人の手の中に、黒い丸いものがある。
文華自身がだした、魔法炎のバリアだ。
それで身を包んでいたんだ。
巨人は、それをつかんでいた。
爪で文華のバリアを引っかき、牙でかじりながら。