バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第104話 『駄目人間』への借り

「茜、あんまり期待しないでくれよ。俺も神様じゃねえから、情報網の幅が広いのはそれだけ人生を積み重ねてきただけ……出た」 

 その嵯峨の言葉に茜とランが画面を見ようと飛び出して頭をぶつけてそのまましゃがみこんだ。

「あのなあ、逃げたりしないから……ちゃんと見てろよ。資料は見方ってもんが大事なんだ。同じ資料でも俺と社会常識ゼロの神前じゃ見方が違うってのは分かるだろ?ほい、拡大」 

 そう言うと嵯峨は端末の画面を拡大してみせた。

「これは……この書体からしてゲルパルトの退役軍人支援団体か何かですか?」 

 島田が画面に映る凝ったフォントが踊るサイトの表紙を見つめている。嵯峨はそれに入力が出来ないはずのパスワードを打ち込んで次の画面へと進む。

「ネオ・オデッサ?聞いたことは有ります。しかし実際に存在するかどうかの確認はと言うと……まだできていない状況で……。ただ、この元となった『オデッサ機関』については知っています。第二次世界大戦の敗戦国、ナチス・ドイツが主にナチスの関係者をイスラエルの特務機関から保護するために作った互助会……そんなところでしょうか?」 

 茜が頭をさすりながら画面を見つめる。『ネオ・オデッサ機関』。ゲルパルトの戦争犯罪人として追われている人物達の互助会と言うことで誠も名前を聞いたことがあった。

「叔父貴、ずいぶんと大物が釣れたじゃないか。ここはあそこの戦争犯罪人の多くがメンバーとして在籍しているはずだぞ。しかし、逃げるための組織がなんだって法術師なんて集めてるんだ?」 

 目を見開くかなめだが、嵯峨は表情を一つとして変えることが無い。

「ああ、こいつらは関係ないよ。裏は取ってある。こいつらは今の危ない活動をしているネオナチとは関係ない。ただ逃げるためだけの組織。その為の募金活動をしている人畜無害な連中だ。まあ、戦時中にやったことを考えれば人畜無害とはとても言えないがね」 

 そう言うと嵯峨は画面を検索モードに戻す。明らかに遊んでいる嵯峨の態度にかなめが拳を握り締める様を誠はひやひやしながら見つめていた。

「最近巷で話題の地球人至上主義を唱える連中が動き出したにしては早すぎるし、地球の追跡を今まで潜り抜けてきたあいつ等にしてはこれまでの証拠を並べてみれば抜けてるところが多すぎる。今回の件に直接は顔をだすかどうか……やっぱり今回もどこかであの男が一枚噛んでるだろうな。金が動くとなればあの男が噛んでいないわけがない」 

 嵯峨は相変わらず濁った眼で画面を見つめている。彼の足元に転がっている三上と言う名の遼帝国指揮官は恐怖におびえながら嵯峨の表情を伺っていた。

「まああの男は金は持ってるからな。完成した法術師を売り渡す相手としては上客だな。でも法術師育成に関する技術はあまり無い。だから金は出すが研究の容疑者からは外れるな。顔が効く範囲で当たってみたんだがやはり、同盟厚生局が噛んでるって所までは当たれるんだけどねえ。そこまでで糸がぷっつり切れるんだ。まるで計ったみたいに。かといって本国の指示で動いているなら大使館辺りと連絡を付けているところを見つかりそうなもんだが、それもまるで無いんだ。でも厚生局の連中は間違いなく黒だ。あそこまで情報を見事に遮断してるってことは知られたくない何かをしているってことだ。もし後ろ暗いところが無いのならどこかに情報のかけらぐらい普通は有るもんだな」 

 そう言うと嵯峨はサラと並んで立っている島田に目をやった。

「?……隊長?」  

 島田が見つめられて自分の鼻に指を当てる。それを見て嵯峨は満足げに頷いた。そしてそのまま転がっている指揮官に目をやるランに声をかけた。

「同盟厚生局はマークしてるんだろ?ならそっちを調べな。同じ同盟機構の組織だとはいえ、ここまで馬鹿にされたらもう遠慮はいらないよ。それに大使館が動いてないってことは遼北と言う国の後ろ盾は連中は期待していないと言うことだ。国際問題にならないなら遠慮はいらないよ、徹底的に奴等の事を調べぬいてきな。ここにいても時間の無駄だぞ。俺は島田と話があるんだ」 

 刀を収めた嵯峨は島田の肩を叩くと廊下を進んだ。ランは何かを悟ったようにかなめの脇を小突いた。仕方なく不思議そうな顔の島田は嵯峨に続いて廊下に消えた。

「西園寺、司令官殿を連行しろ。サラ、手伝え」 

「でも……」 

 島田が連れ出された出口を見つめるサラだが、鋭いランの視線に導かれるように口から泡を吐いている三上と言う司令官の肩を支えた。

「じゃあ、撤収だ。ここはもう終わった場所だ。ここに居るだけで時間の無駄だ」 

 ランはそれだけ言うと銃を背負って歩き出した。カウラもアメリアもそれに習うようにショルダーウェポンを背負う。階段の途中で外で爆音が響いているのに気づいた。

しおり