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第77話 汚い女だと思われて

「カウラ。ちょっと良いか」 

 そう言うとかなめは自分用の端末をサイドブレーキの上に置いた。『志村三郎』と言う租界管理局のパーソナルデータがそこには映っていた。

「先に言っておくけどアイツとの関係はオメエ等の想像通りさ。まあアタシはアイツに何度も抱かれた事が有る。ただ、それは情報を聞き出すためでアタシには娼婦以外にも甲武陸軍の工作部隊員と言う顔があったわけだがな。アイツはこの租界で生きていくにはあまりに口が軽い。よくこれまで生きてこれたのか不思議なくらいにな」 

 かなめの言葉が暗くなる。誠はいくつもの疑問が渦巻いていたが、そのかなめの顔を見て口に出すことが出来なかった。

「おい、西園寺。貴様の戦闘における判断の正確さや義体性能を引き出す能力は私も感服しているんだ」 

 静かにカウラがそう言いながらかなめの死んだ魚のようになる目を見つめている。

「だとしてもだ。なぜ甲武四大公の筆頭がこんな汚れ仕事に携わるんだ?生まれを重視する甲武なら私のような人造人間を造って工作員として育成するとか方法はあったろうに」 

 その言葉にただ無表情で返すかなめに車内の空気は次第に重くなっていった。外の景色はただ建ってからの年月からみると不思議なほど痛みの目立つビルが続いている。そんな中で誠は黙ってかなめを振り返っていた。

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