第53話 島田頼みの整備班
「お出かけですか?ちょっと島田班長に用があるんですけど」
降りてきたランに整備の若手のホープである西高志兵長が声をかけて来た。
「ああ、追加資材の発注だろ?島田は別任務で動くからこれから書類は管理部の菰田に直接回せ。それと何もかも島田頼みってのは感心しねーぞ。自分でできることは自分でやれ」
ランは鋭い口調で西を怒鳴りつけた。
「はあ、そうですか」
ランの言葉に西はそのまま建物の奥の技術部の倉庫に走っていった。
「でもどうするんだ?技術部の専門馬鹿の士官達じゃあ現場を仕切れるとは思えねえんだけどな。整備班は島田がその腕力で支配している小さな王国みてえなもんだからな。その王が居なくなれば家臣達はどうすればいいのか分からなくなって当然だ」
そう言ってかなめが笑った。
「一応それがアイツ等の仕事なんだからさ。連中にもたまには島田頼みじゃなくて現場の人間らしく毅然とした態度をとってもらわねーとアタシも困るんだよ。まあ、西は良い。アイツは自分で考えて行動ができる。他の人間は……まあ成長を待つしかねーか」
ランはそのまま整備員達から敬礼される中を進んでグラウンドに出た。ハンガーを出て山から吹き降ろす北風に身が凍えるのを感じながら誠はランに続いて正門へと向かった。
思わず笑みをこぼしながらランはカウラが遠隔キーであけた『スカイラインGTR』の助手席のドアを開き、助手席を倒して後部座席に身を沈めた。
ランに続いてかなめが後ろの席に座り、運転席にはカウラ、誠は助手席に座ることになった。
「ベルガー、神前。テメエ等は産まれて初めて地獄って奴を見ることになるな」
「地獄?租界ってそんなにひどいんですか?」
誠はかなめの言葉の意味が分からずにそうつぶやいた。
「そうだ。『租界』ってのは一種の地獄だ。あれの中では人間の命なんで毛埃ほどの価値もねえ。そんな世界、オメエ等二人は見たことがねえだろ?」
かなめの言葉に誠は頷くしかなかった。東都『租界』噂に聞く魔都への入り口が誠達の前に待っていた。