第46話 島田の機械いじり
「そう言えば島田はどうした?それとサラも。いつの間にか消えやがって」
かなめの声にアメリアが振り返った。
「ああ、パーラが今度新しい車を買ってそれをいじるんですって。ニヤけながらサラと島田君のバイクで朝一番に出かけたわよ」
島田の機械好きは誠も知るところである。島田の嬉しそうな顔を想像して誠も楽しい気分になってきた。
「好きだねえ、あいつも。アイツは機械さえいじれればなんでもいいんだ。単純な奴だ」
島田から巨大な四輪駆動車を押し付けられたパーラだがさすがに東和では運転しにくいと常々こぼしていた。そんな彼女に島田は仕方なく小型車を探していた。島田らしくその条件に馬力とハンドリングが入っていたのは当然の話だった。
特に島田が狙ったのは20世紀末の日本車であった。しかも小型で大出力エンジンを積んだタイプの車である。先日誠も借り出されてネットオークションに常駐してなんとか落札した車が近々隊に送られてくると言う話も聞いていた。
「島田の奴、今日の仕事分かってるのか?アイツはいつから自動車整備工になったんだ?いくらこの車をフルスクラッチしたのが自慢だからってやりすぎだろ」
かなめのその言葉に誠は不思議そうな顔を向けた。
「ああ、お前は知らないのか?今回の発見された死体と昨日の怪物の捜査は昨日の面子で追うことになったんだと」
その言葉にアメリアも振り向く。誠は一人車窓から流れていく豊川の町を見つめていた。
「なによそれ。初耳よ!」
アメリアは驚いたように声を上げた。情報通を自称する自分にかなめに後れを取る事が有ったことにショックを受けているようだった。
「だろうな。アイツが叔父貴に打ったメールを覗いてさっきアタシも知ったところだ。たまにはアタシの方が情報に先にたどり着くこともある。電子の脳を持つサイボーグの特権だ。アメリア、いい勉強になっただろ?」
かなめは軍用のサイボーグの体を持っている。当然ネットへの接続や介入などはお手の物だった。
「でも、誠ちゃんは大丈夫なの?例の化け物がまた出てくるかもしれないのよ。剣は持っていないんでしょ?どうするのよ」
今度はアメリアは誠に向かって話した。
「いやあ、どうなんでしょうね。でもあんなのが出てくるのはほとんど無いってクバルカ中佐も言ってたじゃないですか。大丈夫ですよ」
頭を掻く誠に昨日その手にかけた、かつて人間だったものの姿が思いついた。
「今度の事件じゃ茜やラン、そしてコイツが切り札なんだからしっかりしてもらわねえとな」
かなめの言葉に頷きながら、カウラはハンドルを切って司法局実働部隊の隊舎のある菱川重工豊川工場の敷地へと車を進めた。
「でも、あんなのと遭遇したらどうするわけ?茜さんの話では銃で撃っても死なないのよ。相手は不死人だから当然の話だけど」
アメリアの言うとおりだと誠も頷いてかなめを見た。銃しか取り柄の無いかなめにとって法術師は天敵であった。
「アタシに聞くなよ。なんでも技術部がいろいろ持っているらしいや。アタシも銃を叔父貴に渡してて今は丸腰なんだ」
いつも銃で武装しているかなめが丸腰であると言う事実に誠は驚いた。
「貴様が丸腰とは……珍しいこともあるものだな……不安にならないのか?」
皮肉めいた調子でカウラはそのまま司法局実働部隊の前の警備班のゲートに車を乗り入れた。
「銃はアタシの精神安定剤じゃねえ!オメエのパチンコとはわけが違う。素手での格闘もこのサイボーグの身体の得意とするところだ。
逆にカウラの『パチンコ依存症』にツッコミを入れながら、新しくなる銃の事を考えているかなめの顔は笑顔だった。