第37話 朝のお約束
翌朝、誠はいつものように定時に布団から起き上がった。そこはいつも通りの寮の自分の部屋だった。カーテン越しの日差しが一日の経過を表していた。そして昨日の化け物の断末魔の声を聞いたような感覚を思い出し首をすくめた。
「しばらく見るだろうな、こんな夢。僕もああなるかも……可能性は少ないってクバルカ中佐は言うけど、僕の力を考えればいつああなってもおかしくないよな。すべてを始めたのは僕なんだ。僕が力を使ったからあの人達はあんな姿になった……僕が力を使わなければ……」
そう思った誠が布団から起き上がろうとして左手を動かした。
何かやわらかいものに触れた。誠は恐る恐るそれを見つめた。
「おう、早いな。しかし、いくら悪夢を見たからって朝から独り言とは感心しねえな。いっそのこと病院でもいった方が良いんじゃねえのか?」」
そこには眠そうに目をこする全裸のかなめの姿があった。そして彼女の胸に誠の左手が乗っていた。
「お約束!」
手を引き剥がすと跳ね上がってベッドから飛び出し、そのまま誠は部屋の隅のプラモデルが並んでいる棚に這っていった。
「おい、お約束ってなんだよ。アタシがせっかく添い寝をしてあげてやったっつうのによ!なんだ?そんなに変態のかえでのことが気になるのか?いくら調教済みの『許婚』だからって、あれには手を出すな。変態になるぞ。アイツは自分のクローンじゃなくって自分の子宮を使ってちゃんとした子供を産みたいとか抜かしてやがった。そうなったら狙われるのはテメエだ。気を付けろ」
かなめはそう言うと自分の部屋から持ってきた布団から這い出し、枕元に置いてあったタバコに火をつけた。そのまま手元に灰皿を持ってくるが、そこに数本の吸殻があることから、かなめが来てかなり時間が経っているのを感じた。
「なんで西園寺さんがここに居るんですか!しかも全裸で!」
誠の頭の中は混乱していた。昨晩の悪夢などすでに過去のものになっていた。
「そりゃあ、テメエの事だから自分が起こした『近藤事件』の事で責任を感じて悪夢でも見てるんじゃねえかと思ってさ。アタシなりに気を使ってやってるんだぜ。感謝して貰いてえな。それに、こんな美女の添い寝……初めてだろ?この童貞」
かなめはそう言って高らかに笑った。確かに誠にはこんな経験はなかったがあまりの突然の出来事にただひたすら困惑と恥ずかしさしかわいてこなかった。
「こんなとこ他の誰かに見られたらどうするつもりですか?僕は変な誤解を受けるのは嫌ですよ!」
誠は胸をあらわにしたままタバコをくゆらせているかなめに向けてそう言った。
「アタシはかまわねえよ。別に二人がどんな関係だろうが人様がとやかく言うのは野暮ってもんだろ?」
反省と言う言葉はかなめの辞書には無かった。
とりあえず誠は息を整えて立ち上がり、カーテンを開けさらに窓を開けた。