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第11話 目的を知らされぬお出かけ

 食堂を追い出されて部屋に戻った誠は着替えを済ませると、部屋の隅に置かれた錦の袋に入っている部隊長の嵯峨惟基から拝領した日本刀によく似た刀、『バカバの剣』に手を伸ばした。

 その剣は400年前の遼州独立戦争の時に、独立の英雄『バカバ』が振るった遼帝国の国宝だと言う。なぜ、嵯峨がこの剣を持っているのかは誠には分からなかったが、とりあえずそれを手に取ると誠は剣を握りしめた。

『神前さんはお父様からいただいた刀を持っていらしてね』 

 部屋に戻る誠に茜がどういう意図でそう言ったのかは計りかねた。剣を持って来いと言うことは何かを斬ると言うことを意味していると思うのだが、誠には先ほどの遺体の写真とものを斬ると言うことが何処でつながるのか分からなかった。

 誠はずっしりと重い紫の袋に入れられた刀を握る。そしてそのまま紐を解いて金色の刺繍(ししゅう)が施された紫色の袋から刀を取り出した。剣道場の跡取りでもある誠は何度か日本刀には触ったことはあった。しかし、柄や拵えは明らかに東和や甲武国で作られた新刀とは趣が違った。

 鞘を払う。そしてそのまま自然に流れるような刃をじっと眺めた。銀色の刀身。おそらくは何人かの命がその波打つ刃で奪われたのかと思うと背筋に寒いものが走った。

「おい、何やってるんだ?切腹でもする気か?」 

 ノックもせずに部屋に入る遠慮の無い人物はかなめ以外にはいなかった。冬のよそ行きと言うようにスタジアムジャンパーにマフラー、いつものジーンズと言う姿の誠が正座をして真剣を眺めている光景はあまりにもシュールだったのでかなめは呆然と立ち尽くしていた。

「誠ちゃん!切腹でもするつもり?いいから来なさいよ!茜ちゃんが時間が無いって!」 

 デリカシーの無さではかなめに引けを取らないアメリアまでもが誠の部屋に入ってきてはなった一言に誠は我に返ると刀を鞘に納め、袋に仕舞って紐で閉じた。その手つきは剣道場の息子らしく、剣を扱うことになれている者のそれだった。

「自衛に刀か?叔父貴みたいな奴だな……ってあれも実際は拳銃くらいは持ち歩いているけどな。VZ52って言うチェコスロバキアの作った20世紀中期の拳銃だ。叔父貴はこいつで使える強装弾を使っててチタンの防弾チョッキでもぶち抜く奴を装備している。ローラーロッキングシステムのVZ52じゃねえと撃てねえサブマシンガン向けの弾が使えるのがこの銃の持ち味だ。うちのアモラーもあれには結構泣かされてるみてえだぞ」 

 諦めたようなかなめの声が響いた。誠もただ苦笑いを浮かべながらそのまま階段を下りて踊り場にたどり着いた。

「遅かったな、神前。じゃあ茜の車にはアメリアと島田とサラとラーナで。カウラの車にはアタシと西園寺と神前が乗る」 

 ランはそう言って乗車の割り振りを決めた。

「クバルカ中佐!なんで俺が茜さんの車に……あの車、香水きつ過ぎますよ!俺は嫌ですよ!」 

 島田が香水のきつい茜の車に乗るのを嫌がってそう言った。

「島田准尉。少しだけ我慢してくださいね。それと車内で暴れないで頂戴ね」

 茜は茜で負けていなかった。彼女もヤンキーである島田とは価値観がまるで違う人生を送って来たエリートだった。誠から見ても二人の相性は良いとは言い難かった。 

「あたしはなんでちっちゃい姐御と一緒なんだ?こっちの方もどうにかしてもらいてえな」

 かなめは慣れているカウラの『スカイラインGTR』に乗るのだから不満は無さそうなのだが、彼女としては口うるさい上司のランと一緒に乗るのはどうも気になる様だった。

「オメーには言っとく事が有る。日野の件だ。そう言えばオメーでも分かるだろ?」

 あっさりとそう言うランの言葉にかなめの顔が瞬時に青ざめた。

「かえでの馬鹿が何かやったのか?路上露出か?電車内露出か?それとも……それでどこの警察の拘置所に居るんだ?教えろ」

 かなめが妹であるかえでを徹底的なマゾヒストの露出狂へと調教したことは隊の全員が知るところだった。そしてかなめの言うどちらの犯罪をかえでが犯してもおかしくないと誠はかえでが誠に見てほしいと言う自分の行為を映した動画を見て知っていた。

「アイツには島田と違って学習能力が有る。どこの警察のお世話になっていると言う訳でもねー。むしろ仕事上の話だ」

 ランは冷静に取り乱すかなめをなだめた。

「仕事上の話ねえ……それだったら、小隊長同士カウラと話せば良いんじゃねえの?アタシは関係ないね」

 かなめは自分に火の粉が及ばないと悟ると安心して責任のすべてをカウラに押し付けた。

「だからクバルカ中佐は私の車に乗る。当然じゃないのか?貴様は私達の話をついでに聞けばいい。それだけの事だ」

 カウラは冷静に話を聞いていて微動だにすることは無かった。

「ほいじゃー行くぞ」

 ランの一言で食堂に集合していた一同は玄関へと向かった。いまだに、不服そうな島田の姿を見てサラが心配そうに彼を見つめた。

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