カイロ
ボクはチィコ。
|牙の国《ガムラス》出身で獣人族の王様、|牙の王《リオン》の娘。
そして勇者パーティの戦闘の要。
って、いう事実は変わらないけど、今は日本で小学生を満喫している。
学校っていうのもなかなか楽しい。
初めは必要ないとか考えてた算数の授業も難しい漢字が多い国語、発音が難しい英語の授業も少しずつだけどわかってきた。
それに毎日違う料理が出る給食も美味しい。
そして、今日もその給食時間が訪れた。
教室からも給食のいい匂いが香ってくる。
この優しく甘い匂いは、間違いなくさつまいもご飯。
もう一方は複雑で食欲唆る香り。
肉の脂、香味野菜、根菜の土っぽい匂いだ。
そう、豚汁。
ボクが周囲に漂う香りに心を奪われていると、前よりもリーダー役が板についてきた穂乃花が教室内に掛けられた時計を確認してクラスメイトへ号令を出す。
「前のクラス当番が戻ってきたので早く着替えて下さい。私達も給食を取りにいきますよ」
「「「はーい」」」
クラスのみんなも穂乃花の頑張り屋なところを認めているので、二つ返事で指示に従う。
とはいっても一部の男の子からは面倒くさいやつとか言われていたりはする。
これに関してはわからなくもない。
実際、前と変わらず反論するとうるさいし。
だけど、前と違う部分もある。
それは穂乃花もその事は承知の上で口酸っぱく言うところだ。
確か「嫉妬は上に立つ者の宿命」とか何とか言っていた。
外野に何を言われようともへこたれない感じは、まるで自信満々の小さなカルファだ。
そんな彼女を横目に見ながらボク自身も給食当番ということで、教室で白衣に着替えを済ます。
そして他の当番の子達と一緒に一階の校内から給食受所に繋がる吹き曝しの渡り廊下へと歩いていく。
「――うぅ、さっぶっ!」
先頭を歩く人族の男の子が身震いさせながら言う。
この渡り廊下は剥き出しになっているので校門から吹き込んでくる風が勢いを保ったまま通り抜けていくのだ。
季節の変わり目、特に秋から冬にかけては通りたくないと言う声が多くなるらしい。
確かに、寒さに強い獣人族は平気。
だけど、ボクらほど寒さに強くない人族は服装によっては堪えるかも。
実際、これくらいの暖かさの日から、冬に掛けてのある日。
勇者のトールであっても、気温が下がる早朝と夜中は「寒いのは無理やわ」と言いながら、自分で考えた寒さを防ぐ魔法を使ったこともあった。
トワルフの森から、魔族の棲み処である|常闇の国《オクタヴィア》かけての道のりでの出来事。
オクタヴィアまでの道のりは、森を抜けて山を越えないとだめだった。
なので、ボクらはトワルフの森で全員分の登山用装備を用意し、それをトールが使用する次元収納にしまうことにより軽装備で山越えに挑んだ。
だけど、山の中腹辺りに来ると天気が急変し、気温がガクッと下がったのである。
その時、軽快に歩みを進めていたトールが足を止めた。
『――さっぶ! 取り敢えず、体温めんと! 冷えは万病の元やからな』
そう言うと体を震わせながら水魔法で掌サイズの水球を出しそれを火魔法で温める。
『ごめんやけど、僕風魔法はあんま得意ちゃうから、カルファも協力してくれる?』
勇者であるトールは一応、全ての属性魔法を扱うことが出来るのだ。
でも、相性は存在するみたいで、風と土、闇属性については本人曰く得意じゃないらしい。
とは言っても、全属性を使える上、オリジナル魔法を作れるんだから得意不得意とかの問題じゃない気がするんだけどね。
『あ、はい!』
トールの一声により温かくなった水球をカルファが風魔法で覆い温度を下げないようにする。
これが面倒くさいわりに体を温めることにしか役に立たない変な|温球《かいろ》っていう魔法。
旅の道中では、寒くなってくると大体、この魔法を使用していた。
この世界に来てからわかったけど、トールはこの日本で使っていた物を魔法で再現しているっぽい。
カイロなんてコンビニにはもちろん、スーパーやドラッグストアにも普通に置いてあるしね。
魔王を倒した後に、トールのルーツみたいなのを知るっていうのは、なんだか不思議な感じだけど。
「カイロ貼ってないの?」
ブルっと体を震わせた人族の男の子に、隣を歩いていた獣人族の男の子が尋ねる。
「貼ってるって! でも、ヒロおじがさ、変なところに貼ったんだよー! 腰に貼ってもあんまりあったかくないのにさー!」
ヒロおじのテキトーさは、なんとも言えないけど、カイロは凄く便利で。
|温球《かいろ》と違ってマナを必要としないので魔法の苦手なボクら獣人族でも使えるんだ。
でも、その獣人族が一番必要としていないっていうね。
案外、獣人族は日本という国が合っているのかも。
この事実を知った時はそう思っていた。
だけど、最近、植物の中に致命的といっていいくらい苦手な物を発見した。
それは街中に植えられているイチョウっていうこの時期、葉っぱを黄金色に色づかせる木。
木自体が苦手というわけじゃないけど、熟したその実が地面に落ち潰れることでとんでもなーくやばいの異臭を放つのだ。
あの納豆すら超える臭いをね。