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大空の旅

 搭乗してから、一時間ほど経過した頃。

 私は何だかんだと言いながらも初めての空の旅を楽しんでいた。

 窓から見える景色は真っ白な雲海に、光り輝く大きな太陽。
 そして果てしなく続く地平線。

 雲の切れ間があると、所々、紅葉が伺える山々に海が伺える。

 スマホなどで見て理解はしていたつもりでしたが、この星も水が豊富で自然に恵まれた場所なのですね。
 
 ですが――。
 
 飛行中に何度か聞こえる機内アナウンスが流れた。

 《皆様、ただいまシートベルト着用のサインが点灯いたしました。シートベルトをしっかりとお締めください。
これからしばらくのあいだ、揺れることが予想されます。
機長の指示により、客室乗務員も着席いたします。
お客様ご自身でシートベルトをお確かめください。
なお、シートベルト着用のサインがついているあいだ、化粧室の使用はお控えください》
 

「んふぅ。ま、また――っ! 内蔵がギュッとなるぅぅー!」

 自然の素晴らしさ、壮大さに心打たれようとも、この乱気流というもの中を飛行する時、内臓を掴まれるような、独特の気持ち悪さが襲うです。

 これは苦手ですし、慣れそうにもありません。

 私が魔法で飛ぶ時はこんなこと起きないのに。

 科学と魔法はやはり在り方自体が違うのでしょうね。

 トール様には、怒られてしまうかも知れませんがやはり早く転移魔法を覚えたい。

「カルファさん……大丈夫ですか? CAさん呼びます?」

「い、いえ! 大丈夫です。もう慣れましたから」

「本当に大丈夫ですか? いつもより何だか顔が青い感じがしますよ?」

「……心配して頂きありがとうございます。最悪、魔法で回復させますから」

「えっ?! 魔法を使っても大丈夫なんですか?」

「私自身が心から必要と感じていれば問題ないですし、自分自身の酔いを直すくらいなら、トール様やヒロおじ様にも怒られないと思います」

「そうですか……とはいえですよ! 無理しないで下さいね!」

「ありがとうございます」

 とは言いましたが、やはり何回もしでかしているので、魔法は使えませんよね……どうか早く収まりますように。 


 
 ☆☆☆



 乱気流に着陸、そして少し長めの電車の旅経て。
 ようやく、目的地まであと一駅。

「カルファさん、よく耐えましたね」

「あはは……な、なんとか……ギリギリ耐えれる範囲でしたので、根性で乗り切りましたね」

 未だに少しフワフワした感じはありますし、そこからの電車はなかなかでしたけれども、私は魔法を使わずちゃんと耐えましたよ。トール様……褒めて下さい。

「ははは……ー、根性ですか。じゃあ今度行く時は新幹線で行きましょうか。少し時間は掛かってしまいますけど、酔うことはないですし、駅弁を食べるなんてこともできますしね!」

「駅弁ですか、とても気になりますが……一番は時間が掛かってしまうのことが問題ですよね……泊まりならともかくですが」

 食べ物に目がないチィコであれば、新幹線一択でしょうが、私はどちらかというと、早く着く方がありがたい。

「うーん、それは確かにですね。でも、それこそ魔法とか? そういえばあるじゃないですか! あっちこっち移動出来ちゃう凄い魔法! それでこの世界に来られたんですよね?」

「凄い魔法……転移魔法のことですよね?」

「ですね!」
 
「やはりですか……ですが残念なことに、あの魔法はトール様しか使えないんですよね。それにいくら伺っても教えてくれませんし、自分で考えようにもどういう原理なのかさっぱりなんです」

「ええ?! そうなんですか! やっぱり勇者さんって凄いんですね! あっ、だったら、どこでも|扉《とびら》とか参考にしてみてはどういうですか?! ほら、あの青いタヌキのアニメの!」

「――ああ! あのタヌキ型ロボットさんですか。でも、物語の中でのお話ですよね……それに科学ですし――」

 舞香さんが口にしたアニメは弱虫な主人公を青いタヌキ型のロボットがさまざまな道具を駆使して、面白おかしくも、主人公の成長を促す心温まる物語。

「じゃあ、無理っぽい感じですね……うーん」

「いや、待って下さい! もしかしたら、共通点があるかも知れません!」

 そうだ、そうでした。トール様は科学や小説、漫画にアニメなどがたくさんある世界で育ってきたのでした。

 ということは、あの奇抜な発想を生み出しているのは、二次元コンテンツと言っても過言ではないはず。

「舞香さん、どうやら私はまた一歩真理に近づけそうです!」

「えへへ……何かわかりませんけど、力になれたなら良かったです!」

 鶴の一声に何かヒントを得られそうになっていると、車内アナウンスが流れた。

 《次は秋葉原、秋葉原。お出口は左側です。山手線京浜東北線地下鉄日比谷線とつくばエクスプレス線はお乗り換えです》

「あ、もう着きますね♪ ささっ、私達の戦いは今からです! 心を躍らせて挑みましょう! レッツ推し活!」

「うふふ、違いないですね! レッツ推し活ー!」


 気合いを入れ直して、電車を降りホームから出た。

 そこには建ち並ぶビル群、個性豊かな看板にアニメショーンが流れる大きな液晶があり、道路には人々が車などを気にすることなく歩く歩行者天国があった。
 
「き、き、きたぁーーーーー!」 

 ここが全国のオタク。いや全世界のオタクコンテンツが取り揃えられた古のコンテンツから、最新の二次元グッズが取り揃えられた場所であり、オタクの聖地。

 私、カルファはついにこの聖地に降り立ちました。

「あはは! カルファさん、凄くイキイキしていますねー!」

「はい、なんというか感無量です! あともう少しで推し作家様達に会えるわけですし、見知ったアニメやアプリの広告、それに平日だと言うのにこの活気ですよ!」

 少し私達エルフに特徴が似通った方々もいらっしゃいますね。違う国の方々でしょうか。何にしても通り過ぎる方々の顔がにこやかでいいですね。

 好きな物を求めて旅をしたり、それを友人と共有したり語り合ったり、きっと平和とはこういうものなのでしょう。
 
「カルファさーん! 早くいきましょー!」

「あ、はーい! 向かいますー!」

 心から楽しい。

 トール様に付いてきて良かった。

 いつか、トワルフの森の皆にも――。  

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