第101話 『平民宰相』の奏上
「では、宰相として大臣閣下に御裁可を頂き等ございまする、まず第一に憲法改正の儀ですが、これは衆議院、貴族院ともに通過した議案にございます。御裁可願えれば、憲法発効の期日の選定を内閣にて検討し衆議院、貴族院の可決を経て、来年の『殿上会』にて奏上させていただきます」
西園寺義基はそう言って一礼した。
憲法の草案はすべて嵯峨が書いたものだった。そこには殿上貴族の権限の制限と平民の権利拡大を目玉とした内容が記されていた。
『官派』の殿上貴族達はこの場で異議を唱えたかったものの、その草案を書いた『不老不死の法術師』である嵯峨がこの場にいることの恐怖と、貴族院と言う彼等の牙城ですでに議決してしまったことと言うことで、ただ歯ぎしりをしながら宿敵西園寺義基の顔を睨みつけることしかできなかった。
「それは祝着。本来であれば太政大臣の認可が要るところですが、私が代わりまして認可させていただきます」
『官派』の貴族達にとって最後の砦だった響子があっさりと憲法改正に認可を与えたことに場は騒然とした。その中、西園寺義基と義弟嵯峨惟基はお互いに顔を見合わせて笑いあっていた。
「では、次の議題へと移りましょう。まず、衆議院の……」
西園寺義基は議会を通過した法案の報告を始めた。緊張した雰囲気の中、最大の壁であった憲法改正法案の認可が下りたことに嵯峨は安どの表情を浮かべて兄の奏上に耳を傾けていた。
『民派』の貴族達はそれぞれに小声で勝利を祝いあい、『官派』の貴族達は自分達の敗北を感じて黙り込んだまま議事の進んでいく様を黙って見つめていた。