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「執着されすぎるのも良し悪しだろ。どんな関係でもな」

「執着・・・か」

「俺が見る限り、アイツの優先順位は絶対的にお前だからな」

「・・・なんでですか?」

「俺に聞くな」

「ミハル・・・さん」

わたしは前を向いていたが、瀬野さんが驚いてわたしを見たのがわかった。

「今なんつった?」

「ミハルさん、ですよね?前に瀬野さんが言ったの覚えてたんで」

「・・・前に?いつの話だ?」

「早坂さんの家でご飯食べて、2人で帰る時です」

瀬野さんは自分が口にした事を覚えていないようだった。無理もない、あの時は無意識に口走ったようなものだから。

「ああ・・・そうだったか?俺、なんつった?」

「何も言ってないですよ。ただその人の名前を口にしただけです」

「・・・そうか」

「その人がどういう人かわからないけど、早坂さんにとって大事な人"だった"ってことですよね」

瀬野さんは、何も言わなかった。

「すみません。言う気なかったんだけど、わたしもこの先、どうなるかわかんないって思ったら、なんか聞きたくなっちゃいました」

「・・・俺の口からは何も言えん」

「はい、わかってます。ただ・・・思う時があるんですよね。早坂さんの過保護ぶりは、その人との過去が関係してるのかな、とか」

「俺からは何も言えん」瀬野さんは繰り返した。「が、否定はしない。アイツはな、まあ、なんだ・・・昔、かなりキツイ時期があった。まあ、それを思えば・・・お前の言う過保護っつーのも、わからなくはないな」

「そうですか。じゃあわたし、意地でも"無事"でいなきゃダメですね」

どんな理由でも、あの人を悲しませることはしたくない。

「たぶん、暴走するぞ、アイツ」

思わず、笑ってしまった。それについては、同感だったから。

「どうしますかね」

「殴るか」

「ブッ、その時は、お願いします」

「俺じゃなくてお前がだ」

「ええ!?なんで!?絶対無理っ!」

「お前なら何されても文句言わんだろう」

「はは・・・」

「中条」

「はい」

「自分の事だけを考えろ」

──それは、瀬野さんなりの励ましだと受け取った。
正直者の瀬野さんだから、"大丈夫"なんて言わない。でも、いつもより口数が多いのは、きっとそういう事なんだよね。

「うっす」

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