7
午前10時─。
窓の外から白いワゴンがこちらへ向かってくるのを確認して、わたしは家を出た。
瀬野さんはわたしの目の前にピタリと車を停めると、運転席から助手席のドアを開けてくれた。
「おはようございます。わざわざすみません、瀬野さん」
「乗れ」
「あい」
「どこだ、見せろ」わたしがドアを閉める前に瀬野さんが言った。
右手を差し出すと、瀬野さんはわたしの手首を掴み険しい顔でソレを見た。
「同じですよね、財前さんのと」
「・・・おそらくな。痛みはないか?」
「はい、さっきも電話で言ったように痛くもないし、身体も至って普通です」
「とりあえず、向かうぞ」
瀬野さんはゆっくりと車を走らせた。わたしはそれを見て、やっぱり"正解"だったと思った。
今日は昨日と同じく、どんよりとした曇り空が広がっていた。今にも降り出しそうだ。昨日と同じように晴れてくれればいいのに。
「あ、傘持ってくればよかった」
「・・・心配なのは雨の事か?」
瀬野さんが呆れ笑いで言った。
「えっ?」
「冷静だな。もっと動揺してるかと思ったが」
「・・・ああ」自分の手にあるアザに目を向ける。「ですね、思ったよりは。まあ、動揺しても状況は変わらないので」
瀬野さんはフッと鼻を鳴らした。「まあ、らしいっちゃらしいけどな」
「・・・早坂さんに伝えてもらえました?」
「ああ。お前んとこに向かいながら、さっきな」
「何か、言ってました?」
「いや、事情を説明して財前さんの所に向かうって言ったらすぐ切られた」
「・・・そうですか」
車が赤信号で停止すると、瀬野さんはハンドルに寄りかかるように肘を乗せた。
「なんで遊里に言わなかった」
「・・・言ったら、反応がわかってたので。絶対ぶっ飛ばして来るし、危ないですよね。それに、わたしも冷静でいたかったので」
「そうか。まあ、そーゆう意味では正解か」
「はい。瀬野さんが冷静だと、わたしも安心するんで。ただ、怒ってなきゃいいけど・・・」
「遊里か?」
「はい」
「そこまでアホじゃないだろ。アイツはお前が思うより、お前の事をわかってるぞ」
「・・・はい、それはわかってます」なんたって、エスパー早坂だから。「本音を言えば、早坂さんには言いたくなかったんですよね」
「理由は聞くまでもないな」 瀬野さんはどこか呆れ口調だ。
「あの人、異常なほど心配するし、それを見てると、わたしのほうが心配になってくるというか」
「まさしく異常だな。それに関してはお前に同情する気持ちもある。つーか、不憫だな」
「不憫、ですか・・・」