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午前10時─。

窓の外から白いワゴンがこちらへ向かってくるのを確認して、わたしは家を出た。

瀬野さんはわたしの目の前にピタリと車を停めると、運転席から助手席のドアを開けてくれた。

「おはようございます。わざわざすみません、瀬野さん」

「乗れ」

「あい」

「どこだ、見せろ」わたしがドアを閉める前に瀬野さんが言った。

右手を差し出すと、瀬野さんはわたしの手首を掴み険しい顔でソレを見た。

「同じですよね、財前さんのと」

「・・・おそらくな。痛みはないか?」

「はい、さっきも電話で言ったように痛くもないし、身体も至って普通です」

「とりあえず、向かうぞ」

瀬野さんはゆっくりと車を走らせた。わたしはそれを見て、やっぱり"正解"だったと思った。

今日は昨日と同じく、どんよりとした曇り空が広がっていた。今にも降り出しそうだ。昨日と同じように晴れてくれればいいのに。

「あ、傘持ってくればよかった」

「・・・心配なのは雨の事か?」

瀬野さんが呆れ笑いで言った。

「えっ?」

「冷静だな。もっと動揺してるかと思ったが」

「・・・ああ」自分の手にあるアザに目を向ける。「ですね、思ったよりは。まあ、動揺しても状況は変わらないので」

瀬野さんはフッと鼻を鳴らした。「まあ、らしいっちゃらしいけどな」

「・・・早坂さんに伝えてもらえました?」

「ああ。お前んとこに向かいながら、さっきな」

「何か、言ってました?」

「いや、事情を説明して財前さんの所に向かうって言ったらすぐ切られた」

「・・・そうですか」

車が赤信号で停止すると、瀬野さんはハンドルに寄りかかるように肘を乗せた。

「なんで遊里に言わなかった」

「・・・言ったら、反応がわかってたので。絶対ぶっ飛ばして来るし、危ないですよね。それに、わたしも冷静でいたかったので」

「そうか。まあ、そーゆう意味では正解か」

「はい。瀬野さんが冷静だと、わたしも安心するんで。ただ、怒ってなきゃいいけど・・・」

「遊里か?」

「はい」

「そこまでアホじゃないだろ。アイツはお前が思うより、お前の事をわかってるぞ」

「・・・はい、それはわかってます」なんたって、エスパー早坂だから。「本音を言えば、早坂さんには言いたくなかったんですよね」

「理由は聞くまでもないな」 瀬野さんはどこか呆れ口調だ。

「あの人、異常なほど心配するし、それを見てると、わたしのほうが心配になってくるというか」

「まさしく異常だな。それに関してはお前に同情する気持ちもある。つーか、不憫だな」

「不憫、ですか・・・」

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