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それから約30分後、瀬野さんの言った事が現実と化す。
財前さんの家に着いた時、早坂さんはまだ来ていなかった。
財前さんはわたしのアザを見ても、顔色を変えず冷静だった。どちらかというと、わたしのほうが動揺していた。今回の財前さんは高校生くらいの姿をしていて、それが超絶美少年だったから。これからは、常にこの姿でお願いしたい。
いつもの和室に通され、財前さんは雪人さんを呼ぶと、わたしの手を見るように言った。
「アザに気づいたのは昨日の夜と聞きましたが、それから大きくなっていますか?」
「あー、いや、変わってないと思います。たぶん」
「痛みや、その他に身体に異変はありませんか?」
「はい、とくには」
「手首より上に痛みはありませんか?」
「ないです」
雪人さんは医者のようにわたしの手を触診している。何か、わかるんだろうか。そして、財前さんを見た。
「まだ、可能性はあるかと」
わたしは、ちんぷんかんぷんだった。可能性?なんの?
「そうか。話は遊里が来てからだね。いつ頃着くだろうか?」
瀬野さんが腕時計を見た。「あー、仕事で遠出してるみたいなんだが、あそこからだと飛ばしてもあと30分はかかるか」
──と、その時、襖の向こうで玄関の扉が開く音がした。
「嘘だろ。空でも飛んできたのかアイツ」
そして、すぐに襖が開いた。
早坂さんはそこに立ち、肩で息をしながらわたしを見つめた。その目は少し虚ろだ。
「早坂さん?大丈夫ですか?」
察知した雪人さんがわたしの前から離れ、すぐに早坂さんと入れ替わった。
早坂さんはわたしの手を荒く掴み、トレーナーの袖を捲り上げた。次にもう片方の腕も。
「早坂さんっ、腕じゃないです」
右手の甲を向けると、早坂さんはまた荒々しくわたしの手首を掴んだ。怖い顔で、ソレを見つめる。
「なんで?なんでこんなことになるの?」
早坂さんがアザを見つめながら、独り言のように呟いた。
「わたしも、よくわからないんです。気づいたら・・・」
「財前さん、これは間違いなく同じアザよね?あたし達が探してる大蛇と同じ奴の仕業ってこと?」
「おそらく。遊里、その傷は・・・」
「雪音ちゃんを認識してたってこと?なんで?」
掴まれた手首が痛い。
「遊里、落ち着きなさい。大事な話が・・・」
「とにかく、そいつに会った場所に行くわよ」
「行ってどうする?そこにいる保証はないだろう。とにかく財前さんの話を・・・」