【商人ギルド長ゲヌト】の語り草
Q.お疲れ様です。本日はお忙しい中お時間いただき、ありがとうございます。
「本当じゃよ。わしは忙しいんじゃ」
Q.流通の最前線、セブ・バザール。そこの商人を取り纏めている商人ギルドのギルド長ですからね。ご多忙さは察することができます。
「今は亡き恩人の……ええっと、友人か? ソイツについて聞きたいなどと言わなければ、この話は蹴っていたわい」
今代商人ギルド長は、子供と相違ない低めの身長に、豊富な髭を蓄えた男性。
ドワーフだ。
Q.貴方のような方はこの辺りにまだいらっしゃいますか?
「ドワーフがってことか? この辺りはわし以外はたまーに流れの旅人として来るくらいじゃよ」
Q.ということは、ドワーフは珍しい、と。
「地方に偏っているだけじゃ。いるとこにはドワーフだけで暮らしていると思われるくらい、多くの同族が暮らしておるよ。……ただ、商人の才があるドワーフはめったにおらんからの。大抵は、鍛冶とか物作りに寄っているやつらが多いんじゃ」
Q.種族的に適性があるから、ですか?
「それもあるじゃろうが、一番は環境じゃな。ドワーフが多く生まれる地は、ドワーフたちが既に物作りで生計を立てておる。その環境に幼い頃から触れていれば、適性と相まって自然とそういうドワーフが増えていくんじゃろ」
Q.それなら、貴方は何故、商人としての才を伸ばせたのでしょうか。
「恩人の話になる。昔も昔の話じゃ。恩人と言えど、人族だからの。もうこの世にはいないが」
Q.その恩人さんに商売を教えていただいていたのでしょうか。
「そうじゃ。品物を仕入れては、道行く旅人らを相手にする卸売業を営んでおってな。それを見ながら旅をしていたものだから、自然と覚えたっていうわけじゃ」
Q.なるほど。恩人さんは、どのような方だったのですか?
「よくわからん」
Q.えっと、わからない、ですか?
「そうじゃ。胡散臭い男じゃった。あの男はいっつも飄々と笑っているだけで、ごく一般の付き合いをしている相手には、内側を見せようともしないんじゃ」
Q.それは、貴方にも、ということですか。
「そのとおり。何の運命か、共に旅することになったはいいが、その男の本心や、他の感情をあらわにすることなど、旅の間で一回も見ることはなかったわい」
Q.それでは、恩人さんは貴方にとっては、ずっと笑っている胡散臭い人……ということでしょうか。
「ああ。……いや、待て」
Q.はい?
「……一度だけ、笑った顔を見たことがあった」
Q.……胡散臭い笑い顔ですか?
「違うわ。あれは、きっと本心からの笑顔じゃった」
Q.どのような状況で、胡散臭さの仮面が剥がれたのでしょうか。
「……知らんわ! わしにじゃなかったからの!」
不貞腐れた顔でフンッとそっぽを向く彼は、大きな息を吐いた。
「お前さんが取材したがっていた、友人に対してじゃよ。まったく、わしも結構長い時間、一緒にいたはずなんじゃがの」
葉巻に火をつけ、紫煙を吐き出す。
紫煙は独特なにおいを天井まで運んで消えていく。
「常に傍にいた弟子より、たまにしか会わん友人のが大事だったんだろうよ。あいつはそういう男だ」
拗ねている。
見てわかるほどに拗ねている。
Q.……お年、お
「あ? あー……六十、は超えておるな」
Q.まだまだ現役には負けんってことですか。
「ドワーフは基本長命なんだっ! 人間換算で年寄りの年齢でも、ドワーフにしてみればまだまだ現役ど真ん中じゃ!」
Q.すみません、すみません。あー、と。どういう経緯で恩人さんと旅に出ることになったのか、聞きたいなーと。
「露骨に話し変えよったな、お主」
ジト目をしばらく続ける彼は、やがて大きなため息を吐き出した。
「まあ、いいか。わしがあの男と旅に出ることになったのは、故郷が焼かれたからじゃ」
Q.………………。えっ。
「がはは。お主もそんな顔をするのじゃな」
Q.いや、軽い調子で言われる話にしてはヘビーすぎますって。てかほんとにノリ軽く来ましたね、この話。
「もう何十年も前のことじゃ。いい加減、踏ん切りはついておる」
彼は懐かしそうな目で、天井を見上げる。
「あやつは焼かれていた現場にたまたま居合わせてなぁ。まだガキじゃったわしを、わしの両親から託されて、共に旅に出ることになったんじゃ」
Q.ご両親は、その後……。
「死ぬ寸前のことじゃよ。瓦礫に潰される中、身を挺して守った子供が、わしじゃ。多分、両親と最後に話したのは、わしの恩人だったじゃろうな」
Q.……恩人とは言うものの、育ての親や、それに近しい関係とは言わないのですね。
「当たり前じゃ。飯を食えるようにはしてくれていたが、それ以外は一切放置じゃ。あれを親と呼ぶとは、わしには到底できんわい」
Q.でも、商売は教えてもらっていた。
「……聞けば教えるだけの情はあったようじゃからの。暇なときも、そうじゃないときも、質問攻めにしてやったわい」
ケッケッケ、と特徴のある笑い声を吐き出す彼は、やがて、その笑いをすっと止める。
「恩人は、イルと名乗っておった」
Q……は、はぁ。
「何を腑抜けた顔をしているんじゃ。必要じゃろ? わしも忙しいんじゃから、
Q.は、はい! それではえっと……。
「何でもいいなら、わしが適当に話すぞ。そうじゃな、わしがこの街に腰を落ち着けた頃の話でもしようじゃないか?」