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【孤児院長ラミ】の【祖父】の口伝

「はいはいはい。私があそこの孤児院の院長をしている、ラミって言いますですよ」

 Q.お迎えに来ていただいてありがとうございます。でも、わざわざすみません。直接伺うつもりでしたのに。

「いえいえいえ。お客さんにこそ気苦労させるなってのは、私の祖父の言いつけでしてですね」

 Q.だとしても、孤児院からここまでは遠かったでしょうに。

「そんなそんなそんな。相乗り自動馬車で、バビュンとあっという間でしたですよ」

 Q.便利ですね。ええっと……。前面が馬の頭? みたいな形なのは……何かの名残ですか?

「ええ、ええ、ええ。昔はこの辺も馬を使った馬車を使っていましてですね。馬の頭が見えないと落ち着かない人が多かったのですね」

 Q.だから頭だけ残して作られたんですね。

「そうそうそう。そうなのですよ。この自動馬車も元は一人の子供が言い出したアイデアだったそうですですよ」

 Q.子供の発想ってすごいですね。

「しかもしかもしかも。その子供は神様のお遣いだったとか、聖女様をお導きするお役目があったとか、眉唾物のお話がいっぱいいっぱいあるのですよ」

 Q.中々非現実的なお話ですね。それは、そういう物語があるのですか?

「いいえいいえいいえ。物語ではないのですよ。私の祖父のお話なのですですよ」

 Q.お祖父様(じいさま)が。

「でもでもでも、祖父から聞いた時はもう既にボケ始めてましたのですから、きっとボケボケの幻覚だったと思いますですよ」

 Q.それでも何かしらの映像というか、記憶はあったのでしょう。無から幻覚を生み出すって、中々無いそうですよ。

「なるほどなるほどなるほど。そうかも知れないですのですね」

 Q.そのお話も聞いてみたいです。お祖父様はご在宅ですか?

「祖父は昨年亡くなりました」

 Q.え……。

 ポツリと一言、独特な喋り方が消えたラミが言う。

「しかししかししかしですね。亡くなった時点で実に三桁超えの大往生でしたです。悔いなど残るはずもありませんですよ」

 Q.凄まじい時間を生きてきたんですね。……それなら、ラミさんから見たお祖父様のお話を、聞いてもいいですか?

「もちろん、もちろん、もちろん。私でよければいくらでも話して差し上げますですよ」

 Q.それでは、お言葉に甘えて。お祖父様はどのような方でしたか?

「それはそれはそれは、愛情深い人でしたですよ。神父様は人を分け隔てなく愛せと言いますけど、祖父はそのとおり、みんな平等に愛していましたですよ」

 Q.素晴らしい方だったのですね。

「はいはいはい。本当にそうなのですよ。ただ難点があるとすればですね、みんな平等に愛するものですから、愛の差別化ができない人だったのですね」

 Q.愛の差別化……ですか?

「そうそうそう。そうなのです。みんな、誰しも大切な人っているじゃないですか? その大切(・・)は、どうしても順位化されてしまいますよねですよ」

 Q.……ああ、なんとなく分かります。家族に向ける愛と他人に向ける愛では、どうしても違ってきますもんね。

「とてもとてもとても、あなた賢いですねですよ。そうです、私もお母さんとお友達のどちらかを選べなんて言われた日には、悩んだ挙げ句お母さん選ぶかもですしですよ」

 Q.でも、お祖父様はそれをできなかった。

「ですですです。そうなのです。私は祖父の孫なのに、祖父は私にくれる愛を、全く見ず知らずの他人にも与えていたのですよ」

 Q.それは……家族にとってみれば、少し寂しいですね。

「わわ、わわ、わわ。分かってくれますですか? 一時が万事、祖父はそんな感じでしたので、晩年にさしかかる頃には諦めてましたですよ。でも、やっぱり」

 Q.少しでも家族の方を大切にしてほしかった。

「そうです、そうです、そうです。もしかして、同じような経験でもされてきましたですか?」

 Q.いいえ。でも、物語に浸ることが好きなので。なんとなく、どういう気持ちなんだろうって、想像をよくしています。

「なるほど、なるほど、なるほど。そうだったんですね。素晴らしい能力ですねですよ。大切にしてくださいですよ」

 Q.ええ、もちろん。

「………………。きっと、祖父がよく言っていた子も、人の気持ちに敏感な、利発な子だったんでしょうねですよ」

 Q.よく言っていた子?

「博愛主義の祖父が、珍しく一人に入れ込んでいた時期がありましたのですよ。私がほんとーっに小さかった頃ですね。他のとこから来ていて、言葉がわからないって子にですね、言葉を教えていたのですよ」

 Q.先生のようなこともしていたんですね。

「ですですです。それで、祖父はですね、よく言ってたんですよ。幼いのに物事をよくわかっている利発な子だって」

 Q.そこまで言わせた人をひと目見てみたかった気もしますね。

「あー、あー、あー。難しいかもですですよ。旅人さんと一緒だったって聞いてますですし、しばらくしたら、旅に出てってしまったって、祖父がよく寂しがってましたですから」

 Q.いずれ会うことがあれば、ぜひお話を聞きたいですね。

「ぜひぜひぜひ。その時は、孤児院のラミは悔しがってたって伝えてくださいですよ」

 Q.ちゃんとお伝えしますね。……他にも、お話がもしあれば聞いてもいいですか?

「ええ、ええ、ええ! もちろんですよ。――例えば、これは祖父から聞いた話になるのですが」

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