第３話（３）二重の意味で
「へえ、やるもんだねえ……」
「余裕を見せている場合か？」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ……」
「なに？ ぐおっ！」
アヤカの右肩あたりを骸骨の剣が後方から貫いた。バラバラになっていたはずの骸骨がすぐに元通りになって、アヤカに生じた隙をまんまと突いたのだ。
「……」
「ば、馬鹿な……」
「ふふふっ、まんまと油断したね……そのドクロナイトはよっぽどのことがない限り、半永久的に復活するよ～」
「は、半永久的にだと？」
「そう……死ぬまでというか、もはや死んでいるからね～はてさて、どうしたもんか？」
赤毛の女が愉快そうに小首を傾げる。
「ぐうっ……！」
アヤカが剣を強引に引き抜き、骸骨から距離を取って、右肩を苦しそうに抑える。
「利き腕である右腕を満足に使えない状態でどうする？」
「ふん……！ こうだ！」
アヤカが剣を右腕から左腕へと持ち替える。それを見て赤毛の女が笑う。
「ふふっ、まあ、当然、そこはそうするしかありんせんよね？」
「……！」
「ぬうっ！」
「………！」
「むうっ！」
骸骨が剣を振るってくる。鋭い連続攻撃だが、アヤカはなんとかそれを受け流す。
「ふふふっ、なかなか粘るね。でも、受けるだけじゃあ勝てねえよ……？」
赤毛の女が感心しながらも慌てない。奴の言うように、このままではジリ貧だ。もはや黙って見ていられない。俺はたまらずに飛び出す。
「アヤカ！」
「キョ、キョウ殿！」
「うおりゃあ！」
「‼」
俺は骸骨に向かって思い切り体当たりをする。不意を突かれた骸骨は転倒し、再びバラバラの状態になる。アヤカが俺に向かって声を上げる。
「こ、ここは拙者に任せてと言ったではありませんか！」
「戦いには相性というものもある！ 窮地で味方を頼ることは何も恥じゃない！」
「！」
「分かったか⁉」
「し、しかし、突き飛ばした程度では、この骸骨騎士はまた……！」
「要はくっつけさせなければいいんだよ！」
「えっ⁉」
「なんでもいい、適当な骨を拾って適当なところに投げ飛ばせ！」
「は、はい……！」
「早くしろ！」
「ええい！」
「うおおうっ⁉」
俺は驚いた。アヤカが投げた骨が俺の肛門にぶっ刺さったからだ。骸骨がカタカタと揺れる。アヤカがそれを見て頷く。
「なるほど、これなら完全に復活することは出来ません！ さすがの洞察力です！」
「な、なんで俺の肛門に刺した⁉」
「え？ て、適当なところにと申されましたので……」
「どこか遠くの方にでも投げれば良いだろう⁉」
「あ～そう言われると……」
「言われなくても分かるだろう！」
「ちなみに中指の骨です」
「そんなプチ情報はいらん！」
俺はアヤカのことを思わず怒鳴りつけてしまう。なんで二重の意味で〇ァックされなければならんのだ。ニジュウノイミデ、アッー！ってか。やかましいわ。
「とにかくしばらくその状態を維持していてください」
「鬼か！」
「骸骨騎士が復活することが出来ませんので」
「払う代償が結構大きいな！」
「はああっ！」
「！」
アヤカが刀を次々と地面に突き立て、転がっていた骨のいくつかを粉々に破壊する。
「こ、これなら復活することは出来まい……」
「なっ……」
赤毛の女が唖然としている。アヤカが刀を突き付けて笑う。
「ふん、驚きのあまり言葉も出ないようだな……」
「え、ええ、それはもう……色んな意味でね……」
「次は貴様の番だ……」
「くっ、そうはいかねえわよ！」
赤毛の女が再び本を開く。開いたページが光ると、モンスターが出現する。それなりに大きいスライムである。ほんのりと赤い体色をしている。アヤカが刀を構え直す。
「スライムか……」
「ふっ……」
「この程度の相手ならば左腕でも、どうにでもなる！」
「……‼」
アヤカが鋭い動きで斬りかかり、スライムを斬る。スライムがあっけなく両断される。
「ふっ、他愛もない……」
「油断大敵よ……」
「なに？ うおっ⁉」
アヤカの両脇腹に、両断されたスライムが飛びつき、火を吐き出す。アヤカはなんとかそれを振り払うが、両脇腹に火傷を負ってしまう。赤毛の女が笑う。
「『スプリットスライム』よ……分裂してからが本領を発揮するの。もしかして、ご存知のうござりんした？」
赤毛の女がわざとらしく首を傾げる。
「おのれ！ このおっ！」
アヤカが刀を振るうが、スライムは数を増やすばかりである。赤毛の女が笑う。
「あははっ！ 斬れば斬るほど増える一方よ？」
「ちぃっ……！」
アヤカが舌打ちする。やはりこの赤毛の女の繰り出すモンスターとは相性が悪い。
「アヤカ……俺と代われ。ほら、そこにしゃがんで……」
「キョウ殿……あっ……」
「【特殊スキル：癒しの手かざしを発動しました】」
俺が両手をかざすと、アヤカの負った傷がみるみると治っていく。回復の呪文などを詠唱しなくても使えるのか、かなり便利だな。しっかりと体に触った方が効果あると思うのだが。これは別に嫌らしい意味などではなくて。まあ、今はどうでもいいか。
「さてと……！」
「⁉」
「【特殊スキル：空間圧縮を発動しました】」
俺は両手をある程度広げてから縮める。その辺一帯にいたスライムがすべて消滅する。
「ア、アンタ、何者⁉ って、なによ、そのふざけた恰好は⁉」
今頃気が付いたのかよ。肛門に中指差され損だろうが。
