こんにちは
城を出発した俺達は、四天王の一人、残虐の王ネフィスアルバが潜むオウッティ山脈へと向かう道中にいる。
最後に王様と会話をした後からほとんど記憶が無いのだが、今は夜営の最中みたいだ。
そういえば、王様公認の夫婦となって初めての夜を経験する事になる。
新婚初夜といえばやる事は一つなのだが、兵士達に囲まれたこの状況でお誘いする勇気は俺には無い。
本当の勇者だったらお構いなしなのかもしれないが。
テントに入ると、アルがこちらに背を向けて横になっていた。
黒いドレスが少し
色々と触りたい欲が
コメ:うおおおおおお!【五万円】
コメ:ありがとうございます! ありがとうございます!【十万円】
コメ:勇太、分かってきたじゃねえか。【五万円】
コメ:やっと仕事したな!【二万円】
コメ:勇太くんさあ、何見ちゃってんの? 次は目を閉じて映せるように頑張ろうな?【八万円】
俺は、獣のような衝動を抑える為に、あえて紳士的に振る舞う事にした。
以前、立ち読みしたメンズ雑誌の中に『モテる男は女性をこう扱う!』という記事があった。
女性との会話は
はっきりと聞き取れるように自信のある話し方をしなさいとか、常にポジティブに明るく接しろとか、今の俺には不可能な
鎧を脱いでパジャマ姿になった俺は、アルの背中に寄り
「ありゅはきょうみょきゃわいいにぇ。にゃぎゃちゃびぢぇちゅきゃりぇちぇにゃい?」
※アルは今日も可愛いね。長旅で疲れてない?
まずは、モテ
更に、自分の中の優しい男をイメージして、指の裏でアルの
……あれ?
なんかアルの顔が熱い気がするんだが。
もしかして照れているのか?
俺はモテる男になっちまったのか?
「勇……者様……。苦しい……のですっ……。せっかく話を……してくれているのにっ……申し訳……ありません……」
アルの様子がおかしい。
アルの
表情は
コメ:おい、勇太何とかしろ!
コメ:アルちゃんが苦しんでる!
コメ:ご飯食べてる時は普通だったのに……。
コメ:回復魔法使える奴呼んでこい!
コメ:アルたん死なないで!
「ぢゃりぇきゃあああああ! ひゃやきゅきちぇきゅりぇえええええ!」
※誰かあああああ! 早く来てくれえええええ!
テントから出て、力の限り叫んだ。
俺には何の力も無いが、何も出来ない訳ではない。
「勇者殿、どうかされましたか?」
すぐに近くに居た兵士が駆けつけてくれた。
「ひゃいぴょーしょんをみょっちぇきちぇきゅりぇ! いみゃしゅぎゅに!」
※ハイポーションを持ってきてくれ! 今すぐに!
そう、ハイポーションだ。
俺がこの世界に来てすぐに死にかけた原因となったおそろしく不味い液体である。
しかし、その効果は抜群で、病気や怪我を一瞬で治してしまう万能薬だ。
俺の様子から兵士も察してくれたのか、何も聞かずにハイポーションを持ってきてくれた。
これさえあれば、アルもすぐに良くなるだろう。
テントの中に戻り、アルの上半身を抱えて少し持ち上げる。
アルの背中は汗でぐっしょりと湿っていて、何が原因なのかは分からないが、酷く弱っているようだ。
小さな瓶に入った
ハイポーションの激臭でアルが顔を
この罰ゲーム的な飲み物を飲みたくない気持ちは分かる。
「ありゅ、ぢゃいじょうびゅじゃきゃりゃ。おりぇをしんじちぇきょれをにょんぢぇきゅりぇ。ひゃいぴょーしょんをにょみぇば、きっちょしゅぎゅによきゅにゃりゅきゃりゃ」
※アル、大丈夫だから。俺を信じてこれを飲んでくれ。ハイポーションを飲めば、きっとすぐに良くなるから
瓶を傾け、少しずつアルの口の中にハイポーションを注いでいく。
「みょうちょっちょぢゃきゃりゃぎゃんびゃっちぇ」
※もうちょっとだから頑張って
残りを全て口に含ませた。
アルは苦々しい表情を浮かべたが、最後の一口がゴクリと喉を通る音が聞こえた。
おそらくこれで治っただろう。
コメ:ハイポーションとはね。これは勇太ナイスとしか言えねえわ。
コメ:これで良くなるよね?
コメ:勇太よくやった!【一万円】
コメ:ハイポーションの空き瓶欲しいわ。
コメ:キモすぎワロタwww
「しゅみゃにゃいぎゃ、みじゅをみょっちぇきちぇきゅりぇにゃいきゃ?」
※すまないが、水を持ってきてくれないか?
「はっ!」
アルの体から大量の水分が汗として放出されてしまっているので、心配そうに見守っていた兵士に水をお願いした。
ほっと
アルは、長い
その目元には涙が
「ありが……とう……ございます……。良くなった……気がします……」
再び苦しそうな表情を浮かべたアルの
アルを抱える俺の腕も湿ってきていることから、症状が
明らかに強がりを言っている。
ハイポーションの効果が出るのには時間が掛かるのだろうか。
いや、そんなはずが無い。
俺が
万能薬でも治せないような絶望的な状態なのかもしれない。
「勇者殿、水をお持ちしました!」
兵士が水を持ってきてくれた。
水差しからコップに注いでもらい、アルに水を飲ませる。
一瞬安らいだような表情を浮かべたが、すぐに歯を食いしばるように苦しみだしてしまった。
アルの体は熱を持ち、薄らとピンク色に染まっている。
胸部が苦しそうに上下し、首筋から流れた汗が胸元を伝う。
俺に癒しを与えてくれる唯一の存在が目の前で苦しんでいるのに、これ以上何も出来ないのが
水を飲ませて、汗を拭いてあげることしか出来ない。
「ぢょうしちゃりゃ……」
※どうしたら……
「勇者……様……。手を……握って……くれませんか……?」
伸ばされた陶器のように美しい指が震えている。
迷いなく差し出された手を握ると、アルが強く握り返してきた。
その力強さからもアルの苦痛が伝わってくる。
俺の右手の骨が
俺も負けじと全力で握り返すが、四天王に力で勝てるはずがない。
アルが万力のような力で俺の右手を握り潰そうとしてくる。
いや、ちょっと強すぎないか?
待って、痛いんだが!
……あれ、これやばいかもしれない。
痛い痛い痛い痛い!
骨が砕ける!
俺の手が潰れかけたその時、アルの体が大きく跳ねた。
「うっ……ぐうっ……。勇者様っ!」
悲痛な叫び声とともに、アルの体が光輝いた。
全身から発せられた眩い光が、粒子となって弾けた。
蛍のように小さな光がアルの腹部に集まり、暖かい光の球体となった。
「オギャア! オギャア! オギャア!」
光が消えると、赤ちゃんがいた。
黒髪にライトグレー色の肌の赤ん坊が、アルのお腹の上で元気一杯に泣き叫んでいた。
コメ:は?
コメ:何が起きた?
コメ:え?
コメ:どういうこと?
コメ:は?
「勇者様、私達の子供が産まれましたっ! 女の子みたいですよっ!」
「いや……え? あ、しょうにゃにょ? へぇ、しょっきゃしょっきゃ。にゃりゅひょぢょにぇえ……」
※いや……え? あ、そうなの? へえ、そっかそっか。なるほどねえ……
さっきまで死にかけていたアルが、満面の笑みで微笑んでいる。
俺は何が起きたか理解できなくてパニックになっているというのに。
振り返ると、水を持ってきてくれた兵士が目を丸くして驚いている。
その後ろには、赤ん坊の鳴き声に気付いた他の兵士達も集まってきており、
「勇者殿、これは一体……」
「にゃんきゃにぇ、うみゃりぇちゃみちゃい」
※なんかね、産まれたみたい
「なるほど……」
俺に説明を求めないで欲しい。
俺が一番驚いているんだから。
この中で唯一冷静なアルは、みんなに背を向けて赤ちゃんに母乳をあげている。
下心半分、興味半分で授乳の様子を覗いてみると、アルに優しく抱き抱えられた赤ん坊が、小さな手をにぎにぎと動かしながら、ゴクゴクと喉を鳴らしていた。
その赤ん坊は、俺が見ているのに気付いたのか、おっぱいに夢中だったマルーン色の瞳を向けてきた。
……ん?
さっき産まれたばかりなのに目が開いている?
生後一週間くらいは目が閉じているはずなのだが。
「ナタリアちゃん、パパが見てまちゅねぇ。パパ見てーっ。元気におっぱい飲めてお利口さんなんでちゅよーっ。えへへ、勇者様に似て可愛いですねっ!」
いつの間にか名前が決まっていたみたいだ。
どうせなら子供の名前は何にしようかってやり取りをしてみたかった。
これが世に言うかかあ天下というやつだろうか。
四天王に逆らう気は無いけれども。
コメ:可愛いなw【一万円】
コメ:色んな意味で凄いもん見たわ!【五万円】
コメ:え、これアルちゃんと勇太の子供なの?
コメ:そんな訳ないだろ。光の中から出てきたんだぞ!
コメ:ナタリアたんキャワワ【二万円】
食事を終えたナタリアがキャハハと可愛らしく笑っている。
自然と俺も顔が
アルも目尻を下げて幸せそうに笑っている。
アルがナタリアを抱き寄せると、ナタリアがアルの顔をペタペタと触って遊び始めた。
微笑ましい光景を見ていると、不思議と
子供が出来た父親というのは、今の俺と同じような気持ちになるのだろうか。
「パパもナタリアを抱いてあげて下さいっ!」
まさか異世界で自分の子供を抱っこする事になるとは思わなかった。
たしか赤ちゃんは首がすわっていないので、頭と首を支える必要があるはずだ。
アルの胸元にいるナタリアを両腕で包む様に受け取り、肘の裏を枕にするようにして優しく抱き上げた。
ナタリアは、「あー」とか「うー」とか言いながらジタバタと元気に暴れている。
「あらあら、パパは抱っこがお上手でしゅねぇ。ナタリアちゃんも嬉しそうですねパパっ!」
「し、しょうきゃにゃ? ぢぇみょ、にゃちゃりあはみゃみゃにょひょうぎゃいいんじゃにゃい?」
※そ、そうかな? でも、ナタリアはママの方がいいんじゃない?
腕の中にある暖かさが命を感じさせる。
自分の子供だという実感は全く無いが、目に入れても痛くないほど可愛い。
美人な嫁と可愛い子供か。
父親というのも悪くはないのかもしれないな。
「にゃちゃりあ、ぴゃぴゃぢゃよ!」
※ナタリア、パパだよ!
「キャハッ! キャハハッ! ダディ!」
いや、そこはパパでお願いしたいんだが?