推理ゲームでもしよう
三日経ち、視聴者が七人になってしまった。 特に何も起こらなかったというのもあるが、ランデルとの会話のほとんどが下ネタだったというのが大きいみたいだ。
視聴者が期待していたのは、従来のキャスターと異なる新しいスタイルの英雄であり、鼻の下を伸ばした欲望丸出しの成人男性ではなかった。
異世界で勇者ユートルディスになってしまった一般人が、何度も死戦をくぐり抜ける奇跡の冒険に胸を熱くしていたのだ。
俺の人間性やユーモアだったり、ランデルの男らしさや強さに魅力を感じてくれていた方々も居たのだが、何日も同じような下品な話しを続けていれば、見る気も無くすのは当然だ。
コメントがお叱りや非難する声で
しかし、ランデルと仲良くなって初めてまともに会話が出来たこと、男としての本能で自制が効かなかったことで、視聴者を
いくら後悔や謝罪をしたところで視聴者は戻って来てはくれないだろう。
その人達はもう俺の配信を見ていないのだから。
今更リセットをして新しい冒険を始めたところで、俺という人間の印象が固定されてしまった以上、何をしようが覆されることは無いだろう。
今回の反省を次に活かそうとしても、一度離れてしまった人の心が戻ってくるような甘い仕事ではない。
俺のキャスターとしての人生は終わったに等しい。
後は、自分の好きなようにラドリックという異世界での冒険を楽しむだけだ。
その内に、自分という人間性を含めてやっぱり俺の配信が見たいという視聴者が戻って来てくれるのを願うしかない。
というわけで、仲良くなったランデルと暇つぶしに推理ゲームをすることにした。
お題に対して解答者は質問をしていき、出題者はそれについて「はい」か「いいえ」で答える。
これを繰り返すことで、お題が含む謎を解き明かし、答えを導き出すという遊びだ。
例えば、『中身の見えない箱の中に、金貨が一枚、銀貨が三枚、銅貨が五枚入っており、この中から一枚がランダムに貰える。男は、自分が確実に金貨を貰えると分かった。何故か?』という問題があったとしよう。
それに対して、「男は超能力者か」、「男は中身を見ることが出来たのか」、「男は金貨以外を貰う可能性があったか」、のように質問していき、その答えが全て「いいえ」であったとする。
得られた質問の答えから、更に推理を伸ばしていき、「男は金貨だけを貰える状況だったのか」、「男以外にも箱の中身を貰った人物はいたのか」、のように質問していって、その答えが全て「はい」だったとする。
そこで、問題の答えが、『箱の中から硬貨を貰える権利がある人物は九人居て、問題中の男以外の八人が、男より前に金貨以外を貰っていた為、男は箱の中に金貨しか残っていないと分かった』と推理出来る。
「ちょいうきゃんじぢぇあしょびゅんぢゃきぇぢょ」
※という感じで遊ぶんだけど
「なるほど、さすがユートルディス殿。面白い遊びを考えますな。ワシは、騎士学校時代に座学で主席でしたので、頭を使うのは大得意なのです。文武両道のランデルと呼ばれた実力をお見せしましょう!」
どの口が言ってやがるとは思うが、お手並み拝見といこう。
自称秀才らしいから、少し難しい問題を出してやるか。
「おんにゃは、しゃいきんにゃきゃよきゅにゃっちゃゆうじんきゃりゃきいちゃ、しぇきゃいいちおいしいりょうりをぢゃしゅおみしぇにいきちゃいちょおみょっちゃぎゃ、しょにょみしぇにょびゃしょぎゃわきゃっちぇいりゅにょに、ちゃぢょりちゅきゅきょちょにゃきゅしょにょしょうぎゃいをおえちぇしみゃっちゃ。にゃじぇきゃ?」
※女は、最近仲良くなった友人から聞いた、世界一美味しい料理を出すお店に行きたいと思ったが、その店の場所が分かっているのに、辿り着くことなくその生涯を終えてしまった。何故か?
勇太:みなさんも一緒に考えてみて下さいね。
「なるほど。その店は、友人から聞いたすぐ後に無くなってしまったのでは?」
「いいえ」
※いいえ
「その友人なのですが、最近知り合ったという部分が重要ですかな?」
「ひゃい」
※はい
ほうほう、このジジイ初っ端からなかなかいい質問をしてくるじゃないか。
俺との会話が成り立たないだけで、部隊を率いているだけあり、本当に頭が良いのかもしれない。
「その問題に出てくる女というのは、その女じゃないと成り立ちませんか? 例えば、男でもよいのでしょうか?」
「ひゃい」
※はい
「ほう、では何か辿り着けなかった理由があるのですな?」
「ひゃい」
※はい
「ふむ……」
こういう時だけ会話が成り立っているという事実に腹が立つ。
しかし、質問自体は的確だし、このゲームが初めてとは思えないくらいにいい線をいっている。
勇太:みなさんも気になった事があれば質問してみて下さい!
「その店が辿り着けない場所にあったのでは?」
「いいえ」
※いいえ
「その店は、誰でも気軽に食べに行けるような店なのですか?」
「ひゃい」
※はい
「むむむ……」
困ってる困ってる。
ただでさえ厳つい顔のランデルが眉間にシワを寄せて悩んでいるせいで、鬼のような形相に変化している。
「それは、現実に起こりえるのですか?」
「ひゃい」
※はい
「生涯を終えたというのは、死亡したということでよろしいですかな?」
「ひゃい」
※はい
「石化の呪いのような、女に何かしらの動けない理由があったのでは?」
「いいえ」
※いいえ
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
ちょっと難しい問題を出しすぎてしまったかもしれない。
ランデルが歯を食いしばり、顔を真っ赤にして悩んでいる。
ハゲた頭頂部から煙が出てきそうな勢いだ。
「その女は、何か特殊な状況にありますか?」
「みゃあ、しょういえりゅきゃにゃ」
※まあ、そう言えるかな
「ふふふ、ユートルディス殿。もしや今のは大ヒントだったのでは?」
「しょうぢゃにぇ。きゃにゃりいいしちゅみょんぢゃっちゃよ」
※そうだね。かなりいい質問だったよ
少し表情が緩やかになったランデルは、足を組み、その上に手を組んで、
このゲームの醍醐味である、あーでもないこーでもないと、得られた情報をパズルのように組み上げていく楽しさを知ってもらいたい。
「その女は、病気でしょうか?」
「いいえ」
※いいえ
「その女の職業は重要でしょうか?」
「いいえ」
※いいえ
「その女の友人が、店に行けなかった原因ではないですか?」
「いいえ」
※いいえ
「ムウゥンッ!」
勇太:ちょっと待って。このジジイ、自分の
ランデルの手甲と
これのどこが頭脳派なのだろうか。
「フゥ……フゥ……」
「いや……あにょ……りゃんぢぇりゅ?」
※いや……あの……ランデル?
「その女は……魔族でしょうか?」
「いいえ」
※いいえ
「ムウゥンッ!」
いやいや、
音と火花でビックリするからさ。
どうするのこの重たい空気。
「や、やみぇりゅ?」
※や、やめる?
「何をおっしゃいますか! 青の知将と呼ばれたこのワシが
ランデルの触れてはいけない部分に触れてしまった気がする。
普段は明るくてイイ奴なのに、地雷を踏むと機嫌が悪くなる面倒くさいタイプの性格だったみたいだ。
「その女が住んでいる場所は重要でしょうか?」
「ひゃい」
※はい
「でしょうな。その住んでいる場所は、普通の人が入れないような場所ですか?」
「ひゃい」
※はい
「でしょうな!」
うわぁ、急に元気になってきた。
自信なさそうにボソッと質問してくるくせに、「でしょうな」って言う時だけ活き活きとした表情で俺の顔を見つめてくる。
でも、今の質問で真実にかなり近づかれてしまった。
ここまでくると、謎が解けるのは時間の問題だろう。
「その女は、海の中に住んでいますよね?」
「いいえ」
※いいえ
「いや、そうでなければ説明がつかないのですが?」
「いいえ」
※いいえ
「ユートルディス殿、嘘をついておりませんか? 悔しいのは分かりますが、負けを認めたらどうです?」
「いいえ」
※いいえ
「見損ないましたぞ!」
「ぢゃきゃりゃちぎゃうっちぇ!」
※だから違うって!
何なのこいつ?
感情の起伏が激しすぎて扱いづらいんだけど。
前の模擬戦の時もそうだったけど、決めつけが激しすぎないか?
「その女は、人間でしょうか?」
「ひゃい」
※はい
「分かりましたぞ! その女は奴隷ですな?」
「いいえ」
※いいえ
「じゃあ何なのですか!」
「いや、ひゃいきゃいいえぢぇきょちゃえりゃりぇりゅしちゅみょんにしちぇよ」
※いや、はいかいいえで答えられる質問にしてよ
「だっはっはっは! 引っかかりましたなユートルディス殿! その女が何者なのかが重要なのだと、御自信で証言されたようなもんですぞ!」
いや、引っかかってないけど。
勝手に勘違いしているだけなんだけど。
「その女は、お城に住んでおりますな?」
「ひゃいちょみょいえりゅし、いいえちょみょいえりゅにゃ。おしりょぢぇみょしぇいりちゅしゅりゅよ」
※はいとも言えるし、いいえとも言えるな。お城でも成立するよ
「その女はお姫様で、侍女から下町の美味しいお店を教えて貰ったが、王から町へ行くことを禁じられていたので、食べに行くことが出来なかった。完璧に分かりましたぞ!」
「いいえ」
※いいえ
「え?」
「いいえ」
※いいえ
「でしょうな。今のはユートルディス殿を試しただけです」
「しょうにゃんりゃ……」
※そうなんだ……
どういうこと?
意味が分からないんだけど。
なんか試されたらしいんだが。
「その女は、お金が無かったわけではないのですよね?」
「ひゃい」
※はい
「目が見えなかったとかでもないのですよね?」
「ひゃい」
※はい
「耳も聞こえていたと?」
「ひゃい」
※はい
「まあ、知っておりましたが」
もうやめていいかな?
答えからどんどん遠ざかっていく。
女の置かれている状況、住んでいる場所が重要だって言っているんだから、そこを掘り下げて欲しいんだけど。
「もしや、その女が死んだのは、友人から店の情報を聞いてからすぐですか?」
「ひゃい!」
※はい!
「でしょうな!」
これは大きなヒントが出たぞ。
今度こそ当てられるかもしれない。
こんなに早く正解に辿り着けるとは思わなかった。
「友人から店の情報を聞いてから死ぬまでの期間では、その店まで辿り着けなかったということですな?」
「いいえ」
※いいえ
「そんなはずが無いでしょう!」
「いや、おんにゃぎゃしゅんぢぇいりゅびゃしょきゃりゃ、ありゅいちぇしゅぎゅにょばしょにしょにょおみしぇぎゃあっちゃちょしちぇみょにゃりちゃちゅんぢゃよ」
※いや、女が住んでいる場所から、歩いてすぐの場所にそのお店があったとしても成り立つんだよ
「ほう、そういうのは最初に言って欲しかったのですが」
その後もいくつか質疑応答を繰り返したが、ランデルは曲解していき、結局正解に辿り着くことが出来なかった。
モヤモヤしたまま眠れぬ夜を過ごすことになるランデルであった。