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男って最低

 食事中に俺の話を聞きたいと言われて連れてこられたはずなのだが、俺はほとんど喋らなかった。 ランデルが泣きながら口をゆすいでいたせいで、進行を取れる人間が居なくなってしまったからだ。
 俺を前にした兵士達は、自分の考える勇者ユートルディスはこうだみたいな話題で盛り上がっていた。
 ユートルディス談義が白熱し、何故か取っ組み合いの喧嘩にまで発展し、俺の目の前に地獄絵図が広がった。
 怒号と悲鳴が響き渡り、呆然と立ち尽くしていた俺は、最終的に俺の為に争うんじゃないという美少女みたいなセリフを言わされる羽目になった。

 さて、四天王の首が張り付けられた悪趣味な馬車に、俺とランデルが二人で乗っている訳だが。
 小休止という名の地獄が終わり、四天王ネフィスアルバが潜むオウッティ山脈へと向かっている。
 緩やかな下り坂なので、馬車の速度が上がり、デコボコした路面が俺のお尻を終わらせにきている。
 衝撃を和らげるクッションのような何かが欲しいと思い、座席とお尻の間に手を入れてみたところ、鎧の重さで手の骨がゴリゴリと音を立てて砕けそうになった。
 それだけでもきついのに、もう一つの問題が生じている。
 馬車の幌に、狂乱の一角獣ライトニングビーストの体液と血液が染み込み始めている。
 そのせいで、凝縮された凄まじい獣臭と血生臭い不快な香りが馬車の中に充満している。
 馬車の揺れと不快な臭いでいつ吐いてもおかしくない。

「にゃありゃんぢぇりゅ、びゃしゃにょうえにょやちゅぎゃきゅしゃきゅちぇひゃきしょうぢゃきゃりゃ、しょりょしょりょありぇしゅちぇにゃい?」
※なあランデル、馬車の上のやつが臭くて吐きそうだから、そろそろあれ捨てない?

「お気づきでしたか。ユートルディス殿がおっしゃる通り、そろそろ物資の残りが怪しくなってきておりますので、途中街に寄り補給したいと考えております!」

勇太:あの、今のって会話になってました? 各々が自分の意見を述べただけでしたよね?
コメ:平常運転だね!
コメ:いつもの聞き違いではなかった。
勇太:もしかして、俺がキンタマを食わせたことを怒ってるんですかね?
コメ:ありえるw
コメ:ランデル可愛いやんwww

「じゃあ、しょにょみぁえにびゃしゃにょうえにょにゃみゃきゅびをしゅちぇちゃひょうぎゃよきゅにゃい? きょんにゃおしょりょしいみちゃみぇにょびゃしゃじゃ、みゃちにょひちょをおぢょりょきゃしぇちゃうよ?」
※じゃあ、その前に馬車の上の生首を捨てたほうがよくない? こんな恐ろしい見た目の馬車じゃ、街の人を驚かせちゃうよ?

「いえ、そこまでの距離ではありませんよ。この先にジークウッドという名の街があるんですが、そこで食料やポーション等の物資を補給したり、武器の手入れをする必要がありますので、宿で一泊することにしましょうか。久々にまともな寝床で眠れるので、疲労も回復するでしょう。兵達も出店で飯を食べたり、女を買うなどして、英気を養う必要があるでしょうからな!」

勇太:はいはい、分かりましたよ。生首を捨てる気はないって事ね。
コメ:ランデル激おこ説が真実味を帯びてきたな。
コメ:まったく聞く耳持ってなくて草
コメ:会話しているように見えて、無視されてるのと一緒という謎の状態。
コメ:どっちも言いたいこと言ってるだけなwww

 ランデルと一緒にいると、イライラして頭がおかしくなりそうだ。
 まあ、宿屋に泊まれるっていうのは素直に嬉しいけど。
 ……あれ、ちょっと待って?
 何か今、聞き捨てならない事を言っていたようなきがするんだが。

「おんにゃをきゃう?」
※女を買う?

「ええ、兵達の士気を上げるには、そういった娯楽も必要でしょう。……ユートルディス殿、ちなみにワシも買いますぞ!」

 ちなみにって誰得情報なんだそれは。
 なにをニンマリと不敵な笑みを浮かべてるんだこのスケベジジイは。
 ……ワシ()
 ということは、俺も(・・)買っていいってことだよな。

 いや待てよ?
 お店で初体験というのは男としてどうなのだろうか。
 いやいや考えろ?
 異世界の女性となんて、そう簡単に体験できる事じゃないぞ。
 そういえば、様々な書物や動画から得た知識では、好きな人との初体験の前に、大人のお店で予行練習をすることで、相手に恥をかかせないで済むとあった気がする。

「ひぇえ、しょうにゃんりゃ。じゃあおりぇみょきゃっちゃおっきゃにゃぁ……」
※へえ、そうなんだ。じゃあ俺も買っちゃおっかなぁ……

 俺も俺もという欲望丸出しの感じではなく、みんなが行くなら俺もという余裕を含んだお澄ましフェイスを披露した。
 さりげない流し目がポイントだ。
 あくまで自然に、あくまで当然に、この絶妙さが重要である。

「おやおやユートルディス殿、お好きですなぁ?」

「おみゃえみょぢゃりょしゅきぇびぇじじい!」
※お前もだろスケベジジイ!

「「だはははははははははは!」」

 初めてこのジジイと心から通じ合えた気がする。
 どの世界でもエロ談義は男同士の絆を深めてくれるんだな。
 言葉では言い表せない不思議な感覚で、自分という存在が受け入れられたような気持ちになる。
 何気ない友人との会話の中で、好きな異性のタイプとか、実はこんな性癖があるとか、秘密を打ち明けた時に、分かるわーと共感し共感される謎の一体感だ。

コメ:うわ、最低ですね。登録解除します!
コメ:勇太くん好きだったのに幻滅しました。
コメ:こっちはエロ求めてねえんだわ。じゃあな!
コメ:はぁ、こういう勘違いキャスターいるんだよな。視聴者が何を求めてるのかを理解してくれよ。
コメ:そういう流れになるならエロ専のチャンネルにしな。俺は勇者ユートルディスの冒険が見たかったのに。

 打ち解けたと感じた俺とランデルは、好みの女性のタイプやら何フェチかなど、そっち方面の話題で盛り上がった。
 途中、コメントが荒れて視聴者が激減しているのに気付いたが、おかまいなしに話を続けた。
 今だけは配信なんてどうでもよく、ただただ楽しいひと時を過ごす方が有益だと判断したからだ。

 全然要らない情報だが、ランデルは腰のクビレに興奮するらしい。
 目つきの悪い気の強そうな女性がタイプで、それを上から屈服させるのが堪らないと言いながら気持ち悪い顔をしていた。
 どうやらランデルは、エスの者だったようだ。

 これも全然要らない情報だが、俺はお尻フェチだ。
 ケツはデカければデカいほどいい。
 学生の時は、後ろから見るジャージ姿がたまらなかった。

 獣人と呼ばれる動物の特徴や特性を体に宿した人間がいるらしく、その中でも猫人族が凄いらしい。
 容姿は人間とほぼ変わらないが、柔軟性のあるしなやかな体が、男たちのあらゆる欲望を受け入れてくれるのだとか。
 また、猫獣人の特徴として、舌のつくりが違うらしい。
 ブラシのように突起状になっており、ザラついているのだが、それが大量の唾液を(まと)った時に、恐ろしい兵器に変わるという。
 細かく小さな突起群にぬるりと撫でられた時、男たちは自然と喜びの声を上げてしまうのだとか。
 そういった理由で、大人のお店で一番人気があるのは猫獣人らしい。

 その他にも、色々な獣人のメリット、デメリットについて教えてもらった。

 犬獣人は従順で人懐っこく、凄く甘えてくるらしい。
 あれがしたいこれがしたいという、こちらの要求をほぼ全て受け入れてくれるので、初心者に人気があるのだとか。
 逆に言えば受け身である為、ランデルのような自称上級者には少し物足りないらしい。
 小刻みに口呼吸をするので、口内が乾いている場合が多く、たまに口臭がきつい人がいるのが唯一のデメリットだ。
 イチャイチャプレイがしたいのならば、この犬獣人一択ですなと、難しい顔をしたランデルが言っていた。
 話の内容と表情にギャップがありすぎて、「真面目な顔でする話しか!」と、思わず笑いながらランデルのハゲ頭を引っ(ぱた)いてしまった。
 ペチンと軽快な音がするほどの力だったのにも関わらずランデルも爆笑していたので、この世界にもツッコミの概念がありそうだ。

 ある層に人気なのが、牛獣人だ。
 豊満で魅惑的な体が特徴で、大きな胸に興奮する所謂(いわゆる)胸フェチの男共がこぞって買い求めるらしい。
 おっとりとした性格なのだが、究極の受け身体質なので、その体に顔面を(うず)めたい欲求がある人以外にはあまりオススメできないという。
 痩せている牛獣人であれば、ボンキュッボンのグラマラスで妖艶な見た目なのだが、種族的に食事の量が多いらしく、太めな女性が多いらしい。
 しかし、脂肪の質が違うので、包み込まれるような柔らかいフワフワボディを満喫したいのなら、牛獣人がオススメですなとランデルが神妙な面持ちで語っていたので、当然引っ(ぱた)いておいた。
 
 次に、ランデル一推しの虎獣人だ。
 めちゃくちゃ攻めてくるらしく、エム属性の人は、ただ仰向けで寝ているだけでいいのだとか。
 では、何故エス属性のランデルがこの虎獣人を好むのかというと、逆に力でねじ伏せて、無理矢理こちらが主導権を握った時の反応がたまらないらしい。
 強い男に惹かれる性質がある虎獣人の女性が、その時どのように素晴らしい状態になるのかをランデルが水を得た魚のように語っていたが、詳細は割愛する。
 ただ、俺には力でねじ伏せるなんて無理だし、本やら映像やらで学んだ知識を披露したい欲もあるし、ちょっと虎獣人は合わないかなと考えている。

 そして、特徴的なのが豚獣人だ。
 こちらは、専門的なお店で働いていることが多いらしい。
 所謂(いわゆる)、デブ専と呼ばれるモノノフ達が好んで利用するのだとか。
 ランデルも、物は試しと一度利用したことがあるらしいのだが、抱き心地が非常に良くハマる人が居るのは分かるという感想らしい。
 今回の遠征に来ている騎士や魔法使いの中にもファンは一定数おり、一度豚獣人の魅力に取り憑かれてしまった人は抜け出せないという。
 何がどうとはあまり大きな声では言えないが、ただただ気持ちがいいらしい。
 そこまで言われると興味が出てきてしまうが、俺の性癖的にはちょっと敬遠したいかなと思う。

 最後に、数は非常に少ないが、一部のファンから熱狂的な支持を得ているリス獣人について触れておこう。
 成人しても人間の子供と同じくらいの身長で、愛くるしい見た目をしている。
 身長と同じ長さの尻尾が特徴的で、何者にも代え難い手触りだという。
 起伏の無い身体は、ランデル的に少しも欲情しないらしいので、リス獣人なんかこっちから願い下げだと強く言い張っていたが、好きな人は好きらしい。
 ソッチ系のお店よりも、大人の飲み屋に在籍していることが多く、尻尾を撫でながら飲む酒は最高なんだとか。
 俺もそっちの趣味はないのでリス獣人は選択肢から外すことにした。

 絶対に選んではいけないのが熊獣人と象獣人らしい。
 熊獣人は、獣人の中でも体毛が濃く、顔以外のほぼ全身が毛に覆われている。
 その毛は硬く、裸と裸で触れ合った時にタワシで擦られているように感じるらしい。
 一度ランデルも怖いもの見たさで指名したのだが、行為が終わった後の自分の体を見て絶望したらしい。
 体中に細かい切り傷が出来ていて、所々に針のような熊獣人の毛が刺さっていて、血が出ていたのだとか。

 そして象獣人なのだが、肌や筋肉がとんでもなく硬いらしい。
 ランデル(いわ)く、「壁とやってる感じでしたぞ」だそうです。
 伝説の魔物との壮絶な戦いを語るかのような悲壮感を浮かべていたので、とりあえず同情しておいた。
 
 どの獣人を選ぼうかと妄想が膨らんでいく。
 お尻の痛みと悪臭に悩まされてはいるが、もうそれどころではない。
 早くジークウッドの街に着かないか待ち遠しい気持ちで一杯だ。

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