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一般人でも勝てる四天王がいるんですか?

 模擬戦という名の茶番が終わり、俺の弱さを証明出来なかった。 このままでは俺も四天王と戦うことになってしまう。
 勇者の立場を利用して、無理矢理ランデルを戦わせてしまおう。
 それしかない気がする。
 
「ではユートルディス殿、早速ライトニングビーストを倒してしまいましょう!」

「ひゃいひゃい、しょりぇじゃおにぇぎゃいしみゃしゅにぇ」
※はいはい、それじゃお願いしますね

ソロで俺が行きますね(・・・・・・・・・・)、ですと? 四天王なんぞユートルディス殿の敵ではないのでしょうが……」

勇太:うわ、またやっちまった。自然な流れでランデルにお願いしようとしただけなのに!
コメ:悪夢再び。
コメ:お願いしますと言うと行かされる定期w
コメ:このスキル『絶望的な滑舌』がマジで悪さしかしないな。
コメ:変なデバフよりよっぽど厄介(やっかい)だよねwww
勇太:さすがに四天王は無理なんですが。
コメ:四天王じゃなくても無理だろw【二千円】

「いや、ちぎゃう。りゃんぢぇりゅぎゃ……」
※いや、違う。ランデルが……

(みな)の物聞けい! これより勇者ユートルディス殿が単独で坑道に入る!」

 この流れはまずい、今度こそ殺されてしまう。
 こいつらを戦わせて、俺はいつでも逃げれるように遠くで見ていたいのに。 

「みゃちぇみゃちぇみゃちぇ!」
※待て待て待て!

「承知しております。我々は待機じゃああああああああ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

「「「ユートルディス! ユートルディス!」」」

勇太:違うって、待機しろって意味の待てじゃないんだってば!
コメ:思考が犬と同じw【五千円】
コメ:ユートルディスコール入りました!
コメ:四天王に勝ったら二千万やるわ。
コメ:金で(あお)るのやめな?
コメ:それな。人殺しと変わらんで?
勇太:みなさん、安心して下さい。今回はリセットしますよ!
コメ:だよなwww
コメ:誰も文句言わないから大丈夫よ!

 こうなったら、坑道の入り口付近でリセットするしかない。
 直前で剣と盾を捨てて、鎧を脱いで帰還する。
 これでいこう。
 ハゲたジジイとその仲間達に全てを(なす)り付けて、おさらばするとしよう。

 少し歩いて後ろを振り返ってみると、騎士達が剣や槍を盾に叩きつけてガシャンガシャンと鼓舞(こぶ)の音楽を(かな)でていた。
 魔法使い達は、俺の門出を祝うが(ごと)くお空を可愛らしく(いろど)る魔法を打ち上げ、炸裂音(さくれつおん)を鳴らしている。

 ちょっとマジで止めて欲しいんだけど。
 敵が居るって分かっているのに、「今から行きますよ!」みたいな音出したら駄目だよね?
 こんな最悪な奴らなんてもう知らない。
 元々俺には関係の無い話しだし、そもそも四天王になんて勝てる訳がないしな。
 ま、俺は逃げますんで、後は頑張ってくれよ。
 
 俺は、漆黒のオーラが蔦状(つたじょう)(うごめ)く坑道の入り口手前で立ち止まった。

 ……あばよ馬鹿ども。

「死ねい!」

 剣と盾を捨て、黄金の甲冑を脱ごうと手をかけたその刹那(せつな)、空気を切り裂く無機質な雷鳴と共に、目の前を黒い稲光(いなびかり)が通過した。
 坑道の奥から、猛獣が威嚇(いかく)する時の(うな)り声を言語化したような獰猛(どうもう)な声が聞こえた。

「ひぇっ……」
※ひぇっ……

勇太:し、死ぬところだった。
コメ:え、何で近づいたの?
コメ:さっさと鎧脱いでリセットしたら良かったやん!
コメ:言ってる事とやってる事がリンクしてないんだよなあ。

 地中の水分が急激に蒸発したのか、漆黒の雷が通過した地面から、白い煙が立ち昇っている。
 削り取られた砂地は、高温で熱されたガラスのように赤く光り、ボコボコと沸き立ちながら溶解していた。
 
「ふはははははは! 貴様らのまぬけな会話、筒抜けであったぞ! 勇者ともあろう者が、今から行きますとばかりに騒ぎ立てるとは片腹痛いわ! さあ、愚かな勇者の首を魔王様への手土産としようか!」

勇太:まったく正論ですね。
コメ:いや、何で冷静なの?w
コメ:地面が溶岩みたいになってるぞ!
コメ:早く帰還しろ!

 敵のすぐ近くで馬鹿騒ぎしてたらこうなるに決まってるんだよ。
 しかも、勇者だと分かってやる気を出しちゃってるみたいだし。

 坑道の中を覗く勇気なんて無いので、狂乱の一角獣ライトニングビーストがどのような姿なのかは分からない。
 しかし、暗闇の奥から心臓を握り潰されるような恐ろしい気配を感じた。
 暗闇から漏れ出す漆黒のオーラが、四天王の心情を(あらわ)すかのように激しく揺れ動いている。
 そのプレッシャーだけで胸が苦しくなり、過剰(かじょう)に空気を取り込もうと呼吸が荒くなった。
 血の気が引くとともに意識が遠のき、背筋が粟立(あわだ)つ。
 恐怖で思考が阻害される。
 一般人が無闇に近づいていいものでは無かった。

「我が名は狂乱の一角獣ライトニングビースト。我に挑んだ事を後悔させてやるわ! 勇者よ、死ぬがいい!」

 濃密な死の予感が脳内を埋め尽くすと同時に、腰が抜けて情けなく尻餅をついてしまった。
 俺は、自然と生存本能に任せた行動を取っていた。
 地面に投げ捨てたルミエールシールドを両手で拾い上げ、その後ろに(かが)んで隠れた。

「グルォオオオオオオオ!」

 けたたましい咆哮(ほうこう)とともに、坑道の奥から放出された漆黒のイカヅチが山も壁も地面も関係なく吹き飛ばした。
 轟音と共に俺の周囲が黒く光り輝き、地形がどんどん変わっていく。
 幸か不幸か、ライトニングビーストは俺をいたぶるつもりらしく、自分の力を誇示(こじ)するからのように俺を避けた場所を狙っているようだ。
 俺の周囲は火山のマグマ溜まりのようになっていた。
 逃げ場が無いとはこの事だなと自分の死を受け入れるしかなく、無我の境地に達している。
 液状化した地面から放射される熱でとんでもなく暑いが、サウナよりはまだ我慢出来る程度で済んでいるのが救いだろうか。
 まあ、俺のすぐ側を黒い稲妻が通った時点で、脚からこんがり焼けてしまうだろうけど。

コメ:おいおいヤバいって!
コメ:世界の終わりみたいな光景なんだが……。
コメ:何でリセットしないの?
コメ:分からんが、死の恐怖で頭が真っ白になってるのかもしれない。

 もう俺には盾の持ち手を両手で握りしめ、神に祈る事しか出来ない。
 だって、死を覚悟しているんだから。
 ランデル見てるか?
 お前のせいで大変な目にあってるぞ?

「ぐおっ……やるではないか! ぐっ、ぐああああっ! クソ、勇者め。これでどうだ!」

 何故か分からないが、ライトニングビーストが一人で盛り上がっている。
 ドッカンバッカンと地面やら何やらが吹き飛ぶ音がするが、俺は必死に盾の裏に隠れることしか出来ない。
 俺の周囲からは、そろそろ耐え切れない程の熱が発せられている。
 もうすぐ俺は跡形も無く燃え尽きてしまうだろう。
 最後にお母さんの肉ジャガが食べたかった。

「ぐふっ……。我が肉体に傷をつけられたのは二百年ぶりだ。面白い、面白いぞおおおおおおおおおおおお!」

 何が面白いの?
 どうして傷ついてるの?
 もしかすると、ライトニングビーストの注意が俺に向いている間に、ランデル達が攻撃してくれているのかもしれない!
 ハゲチャピン、早くなんとかしてくれ!

「ぐうっ、我の肉体をここまで傷つけるとはな。流石は勇者といったところか! だが、このライトニングビースト最後の技をもって貴様を葬り去ってくれよう! 消え去れ、カオスライトニング・ゼラ!」

「ひぃいいいいいいいい! おうてぃにきゃえりちゃあああああい!」
※ひぃいいいいいいいい! お家に帰りたあああああい!

 雄叫(おたけ)びとも取れる、濃密な死を(まと)った言葉がライトニングビーストから発せられた。
 あまりの恐怖に、俺は叫ぶことしか出来なかった。

 あれ、(まぶた)の裏から光を感じない。
 先程まで、稲光のような(まばゆ)い光が継続的に発生していたのに。

 恐る恐る目を開けてみると、視界は暗闇に包まれていた。
 黒よりも暗い、一切の光を排除したかのような世界だ。
 音も無く、自分の意識だけが宙に浮いているかのようだ。

 もしかして俺、死んじゃった?

「ぐあああああああああああああああ!」

 ライトニングビーストの断末魔と共に俺の両目は光を取り戻し、天変地異が起きたかのような周囲の惨状に絶句した。
 俺を中心とした地面が、半円状に大きく消失したかのように切り取られており、その断面は光すら通さない漆黒に塗られていた。

「突撃じゃああああああああああ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」

 ランデルの号令と共に、騎士と魔法使い達が坑道に突っ込んで行った。

「勝ち(どき)じゃあああああああああ!」

「「「ユートルディス! ユートルディス!」」」

 坑道から出てきたランデルは、剣の先に巨大な生首を掲げていた。
 その生首は、額から螺旋(らせん)状にねじれた一本の立派な角が生えた、人間そっくりの顔をしたライオンのような見た目だった。
 だらしなく舌を垂らしたその首は、(うら)めしそうな目で俺を見ている気がした。

コメ:えっ、どういうこと?
コメ:すげえ! 四天王を倒しちまった!
コメ:一般人でも四天王に勝てるんですね。画面が真っ暗になった時、絶対死んだと思ったのに。【二千万円】
コメ:解説してくれない?
勇太:俺も解説欲しいです。
コメ:お前に分からないなら誰も分からんわwww
コメ:馬鹿たれすぎてホント好きw【五千円】

 いや、何もしてないんだが?

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