異世界で食レポを
ワイバーンとの激闘を終え、小休止をしながら食事を取ることになった。
この時点で視聴者数は千人を超え、登録者は三千人以上になった。
今日貰ったマネーチャットとサブスク報酬を合わせたら、先月のバイト代を余裕で超えている。
それ以外の騎士や魔法使い達は、火を起こしたり、鍋を準備したり、
そして俺は、何故かランデルから四天王戦に向けての作戦を相談をされていた。
戦闘に関して何の知識も無いこの俺が何を答えればいいのだろうか。
突っ立ってればいいんだよとでも言わせるつもりなのだろうか。
「ユートルディス殿、知っての通り残虐の王ネフィスアルバは四天王の中でも最弱と言われておりますが、身の丈を超える巨大な魔剣による一撃が非常に強力です!」
「ぢょりぇきゅりゃいきょうりょきゅにゃにょ?」
※どれくらい強力なの?
知っての通りと言われても、こっちは前情報無しなんだけどね。
「ネフィスアルバが最後に姿を現したのは半年程前なのですが、その時は魔剣を振り下ろした衝撃波でライラットの街が消し飛んだらしいですな。まあ、ユートルディス殿なら楽勝でしょうが」
「ひぇー、しょうにゃんりゃ……」
※へー、そうなんだ……
「そこでなのですが、ワシと騎兵でネフィスアルバの注意を引き、攻撃し続けることで隙を作ります。無防備となった奴の背後から、ユートルディス殿の強力な一撃で仕留めるというのはどうでしょうか?」
なるほど、俺の強力な一撃でね。
勇太:えっと、今の話って、四天王なんとかアルバが剣を振ったら街が無くなったって事でいいんですよね?
コメ:そうだねw
コメ:四天王最弱の強さじゃないんだけどww
勇太:このジジイは、そんな化け物に俺が楽勝で勝てると言ってるって認識で間違いないですよね?
コメ:だからそう言ってるって!www
コメ:出会って三秒で消し飛ばされそうですね!
勇太:へー、盾も剣もまともに持ち上げることが出来ないこの俺が勝てるんですね。
コメ:急な自虐やめろwww
コメ:なんなのこいつw
コメ:最初から分かってた事だろうが!w
コメントの言う通り、魔剣を振られたらその時点で俺も消滅すると思う。
当初の予定では、ランデルが残虐の王ネフィスアルバを倒すという話だったはず。
ということは、ランデルは街を消し飛ばすほどの衝撃波に耐えれる事になる。
騎士とランデルで隙を作るのなら、騎士も同様に戦えるって事だよな。
よし、俺抜きで戦ってもらうとしよう。
「あにょしゃ、おりぇぎぇりゅびゃんぢゃいんおみょきゅちぇあちゅきゃえにゃいんぢゃきぇぢょ?」
※あのさ、俺ゲルバンダイン重くて扱えないんだけど?
「それは素晴らしい! 是非ともお願い致します!」
勇太:ちょっと待って、今何て聞こえたの?
コメ:恐ろしい会話のキャッチボールが成立したな。
コメ:ネガティブをポジティブに変換されたぞw
コメ:何て聞こえたのか気になるwww
勇太:確かに。怖くなってきました。
「えっ? にゃんちぇききょえ……」
※えっ? 何て聞こえ……
「お食事の用意が出来ました。勇者殿はこちらをどうぞ!」
大事なタイミングで会話を邪魔されてしまった。
給仕係の騎士が木製の大皿を抱えてやって来た。
ランデルの話が聞けなかったのは残念だが、この異世界に来て初めての食事に胸が躍る。
コメ:無視されてるw【二千円】
コメ:笑うわこんなもんwww
コメ:勇者の扱い雑すぎなw
「……ん? にゃにきょりぇ?」
※……ん? 何これ?
あらまあグロテスクですこと。
器の中には、いい香りのする白濁したスープが入っており、ハンドボール大の白いゲル状をした何かが二つ浮かべられていた。
浜辺に打ち上げられた水クラゲみたいだ。
友達と海で花火をした時の
「はっ、ワイバーンの眼球を塩茹でにしてみました! テールの部分を強火で煮出し、旨みを凝縮したスープになっております。どうぞお召し上がり下さい!」
塩茹でにしてみましたって、シェフの気まぐれみたいな紹介されても困るんだが。
自信満々な騎士の態度が腹立たしい。
先住民族からイモムシをご馳走される芸能人の気持ちが分かった気がする。
勇太:えっと……食べるんですか? 俺が、これを?
コメ:きしょくわるっw
コメ:う、美味そうじゃん……
コメ:記念すべき異世界初の食事がこれ?w
コメ:食レポ期待です!
コメ:全部食べたらマネチャ一万円あげるよ。
「どうなされましたユートルディス殿? ワイバーンの肉は非常に
だったら肉が食べたいんだけど。
なんで美味い肉の部分じゃなくて希少な部位を出されるんだよ。
有名なカレー屋さんで親子丼を食べさせられる気分だ。
給仕係りもランデルも俺が食べるのを待っているみたいだし、マネチャも貰えるしなあ。
ワイバーンの眼球をフォークで刺すと、意外にもシリコンのような感触で、持ち上げてもしっかりと形を保っていた。
俺は、心の中で十字を切り巨大な眼球にかじりついた。
「うっわあ……。しょっきゃんはしゅぎょきゅきみょちわりゅいきぇぢょ、ちょんぢぇみょにゃきゅうみぇえ。きょりゃうんみぇえわ!」
※うっわあ……。食感はすごく気持ち悪いけど、とんでもなくうめえ。こりゃうんめえわ!
コメ:え、美味しいの?
勇太:
コメ:一瞬でこの感想が出てくるセンスwww
コメ:口から出た感想は頭悪そうだったのにねえ。
勇太:ダメだ、止まらねえ……。
コメ:わんぱく小僧の食べ方で草
コメ:
コメ:何でヨダレが出てくるんだろう?
コメ:分かるw
ランデルがワイバーンは美味しいと言っていたのは本当だった。
体が打ち震え、全身が鳥肌立つほどだ。
眼球でこれだけ感動出来るのだから、他の部位はどれだけのポテンシャルを秘めているのだろうか。
たまらず白濁したスープを口に含んでみると、脳から幸福を感じた時に出る信号が爆発した。
「うっひょおおおおおおお! しょんぢぇみゃちゃしゅーぴゅみょしゃいきょう! にゃんにゃにょきょにょにょうきょうにゃひゅきゃみちょあじわいは!」
※うっひょおおおおおおお! そんでまたスープも最高! 何なのこの濃厚な深みと味わいは!
コメ:スープいったああああ!
コメ:どうなのどうなの?
勇太:まず、煮出したと言っていたが、とんこつスープや
コメ:料理の見た目と感想のギャップw
コメ:味覚はいいんだな。滑舌は悪いのに。
コメ:やめたれw
コメ:罰ゲームになるかと思ったのに!【一万円】
食事で感動を覚えたのはいつ以来だろうか。
これだけでも異世界に来た甲斐があったというものだ。
ワイバーンの目玉煮込みは抜群に美味しかった。
これは嘘偽り無く断言できる。
しかし、どうせなら肉が食べたかった。
スープからは濃厚な旨みを感じたし、このエキスが出せる肉はどれだけ美味しいのって話なんだけど。
ワイバーン肉の鉄板焼きを美味しそうに食べる騎士達の姿を、羨ましそうに横目で見る事しか出来なかった。
「よし、片付けたら出発するぞ!」
あっという間に片付けが終わり、行軍が再開された。
話が通じないランデルと二人きりの馬車はつまらない。
キャッチボールが出来ない会話がこれほど苦痛だとは思わなかった。
「りゃんぢぇりゅ、みょきゅちぇきちまぢぇはぢょりぇきゅりゃいきゃきゃりゅんぢゃ?」
※ランデル、目的地まではどれくらいかかるんだ?
「オウッティ山脈までは、おそらく二週間くらいでしょうか。山の麓に馬車を停め、そこからネフィスアルバの住処を探しますので、早ければ
勇太:遠すぎなんですけど?
コメ:登山家なみにきつい行程だな。
コメ:歩いただけでくたばってたのに山なんて無理だろw
勇太:二週間もこの馬車で過ごしたらお尻が壊れそうです。椅子が硬くて。
コメ:虚弱の極みwwwww
コメ:やはり一度戻った方が。
たしかに、こんな重たい鎧を着て山を登ったり降りたりしていたら心臓が破裂してしまう。
コメントの言う通り、一度城に戻ってランデル達だけで残虐の王ネフィスアルバを倒してもらった方が良さそうだ。
「りゃんじぇりゅ、きゃえりょう!」
※ランデル、帰ろう!
コメ:リセットの方の意味で戻った方がいいって言ったんですけどね。
コメ:いや草
「
「みょぢょりゅんぢゃよ!」
※戻るんだよ!
「なるほど、
コメ:近場で良かったね!
コメ:四天王二連戦確定www
コメ:結果遠回りになっただけやんw
コメ:ストレスゲージがまた真っ赤になってるぞ!
会話をすると、悪い方へ悪い方へと物事が進んでしまう。
頭が割れるような痛みと共に精神的な負荷が押し寄せ、俺の視界はぐるりと回り、気を失ってしまった。